亡国の日露海底トンネル。押し寄せるのは戦車か難民

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 ウラジミールと我らがシンゾーの会談の評価は分かれ、どちらかといえばマスコミは「失敗」を書き立てたいようですが、専門家に尋ねればそれぞれの立場からの賛否はあるにせよ、

「会っただけ良し」

 とはあまりに雑な総括でしょうか。

 経済協力だけの「食い逃げ」は、ロシアの得意技ですから、警戒する気持はわかりますが、それは逃げられる側にも問題があるわけで、「サハリン2」の事件を教訓とすべきでしょう。

 「サハリン2」の事件をザックリと説明すれば、ロシアから見た外資にサハリン沖の資源開発をさせ、その外資には日本企業も含まれ、購入先には東電などの電力各社が名を連ね、8割方完成したときに

「環境破壊になるから止めた」

 とロシアの天然資源省が発表し、すったもんだの果てに、これまた簡単に言えば、出資企業は50%の減資、つまり100億ドル投じたとしても、50億ドル分の権利しか認められず、残りはロシアの国営企業が「ぶんどった」という事件。これが10年前。

 帝政ロシアの時代から、裏切りや約束の反故は彼らの習慣で、心を許し握手する相手ではない、とはヨーロッパ諸国の共通認識だと、朧気ながら司馬遼太郎が『坂の上の雲』で指摘していたと記憶しています。

 実際、北方領土を強奪したのは、連中が約束を違えたから。

 だから、ロシアに心を許してはなりません。ただし、嫌露感情を煽るものでもありません。

 国際社会において「騙される方が悪い」もまた、常識だからです。なにより、正義面している米国と英国は、ヤルタ秘密協定で

「うっしし、日本を破壊し尽くし奪い尽くしてやる、うっしし」

 とソ連と手を組んでいたのですから、何を況んや。そしてロシアの、当時はソ連の条約違反による北方領土の強奪は事実上見逃されたのです。

 ロシアに限らず、外交においては剣道における「残心」のように、攻防いずれにせよ「次」に備える心構えが必要で、拳法が「立身中正」を保てと教えるのも同じです。

 週刊少年ジャンプの主人公が追い詰められて発する

「オレのコスモをすべて燃やし尽くす!」

 など論外。あるいは

「(遙かマダガスカルに存在するという大地から屹立する虹)
 ウイニング・ザ・レインボー!!!」

 といった全身全霊をかけるものではなく、もう少し分かりやすく言えば、余力を残しておくのが交渉の基本だということです。

 なお、前者の「コスモ」とは「小宇宙」の当て字で、『聖闘士星矢』に登場する体内エネルギーの設定。後者は『リングにかけろ(リンかけ)』の主人公のファイナルウェポンのアッパーカットで、作者はどちらも車田正美。

 シンゾー&ウラジミールの会談が開かれた山口県と聞いて、私が思い出したのが車田正美ととろりん(西村知美)。

 ところが車田正美氏。ウィキペディアをひくと「中央区月島」と東京下町育ちとなっていました。私の記憶は「リンかけ」のコミックスの巻末解説で、漫画家だったかボクサーだったかが、

《作者の地元山口で母ちゃん、姉ちゃんと人情劇をやっていときはちんたらしてたけど、必殺パンチがバーンとでるようになって盛り上がったぜ。狂え、狂うんだ!(30年以上前の記憶のみで書いております。事実誤認ならすいません)》

 と寄せられたコメントからの記憶。出身地ロンダリングは多々あることながら、子供心に、地方からでてきて頑張る主人公「高嶺竜児」に憧れたものです。そこに「坂本龍馬」がモチーフであるとは後に知ることになるのですが、これは余談。

 交渉毎は相手の立場になって考えなければなりません。

 北方領土を仮に日本に返還したとします。

 そこに「米軍」が駐留したらどうなるか。これはウラジミール、もといプーチン大統領自ら、会談後の日露首脳会談で

《例えば、ロシアには(極東)ウラジオストクと、その北に大きな艦隊の基地があります。わが国の艦船は(その港から)太平洋に出ていく。(返還したとしてと※筆者注、一部略)この点において、日米の特殊な関係と、日米安保条約がどのような立場を取るのか。私たちは分かりません。(産経WEB)》

 と示唆しています。

 最先端の戦争は、ミサイルどころか「衛星」がトレンドとされ、さらにサイバー空間が主戦場とされていますが、それはあくまで陸海空の通常兵器があってのこと。

 ロシアのように充分な核兵力と、ミサイルの性能と本数をもっていれば、仮に敵国が打ってきたならば即座に反撃し、どちらの国も甚大な被害が避けられません。

 ただし、仮想敵国が米国なら、ロシアの反撃により「民主主義の脆弱性」が表出するのは火を見るより明らか。民主主義の脆弱性とは、すなわち「民意」で、打ち込まれたミサイルで火の海になった町をみた国民が、戦争継続を嫌い、その意思表明により政治を動かす可能性です。そこにウォール街などの銭ゲバの意思も反映されることでしょう。

 対するロシアは専制国家。やるも引くも決めるのは、皇帝プーチンです。革命さえ起こらなければ。

 そしてサイバーアタックにしても、Newsweekによれば、プーチンがもっとも信頼するデバイスは「紙とペン」のようで、社会インフラに深刻なダメージを受けるとすれば米国で、ヒラリー氏がハッキングされた、とオバマ自ら認めるほど脆弱であるのも、民主主義の抱える脆弱性と言えるでしょう。

 より便利を求める国民が野放しになっており、便利の隙間に闇は潜むのです。端的にいえば「ヤバイ」内容のメールを、気楽にやり取りしていたヒラリーに代表されます。

 また、法治国家を掲げる民主主義国家では、法律の制約を、一定程度は受けてしまい、これが枷となりますし、ハッカーを超法規的と諭したとしても、良心の呵責が邪魔をするのはエドワード・スノーデンに明らかでしょう。

 対して、ロシアはもちろん、中国にせよ、サイバーアタックが得意なのは、法律のくびきがないからです。あるのはプーチンと共産党、あるいは人民解放軍の支配だけですから、やりたい放題。そして彼らにとっては、自らの存在こそが正義です。

 かように核は論外ながら、ミサイルにせよ、サイバーにせよ、打つ手がないとしたとき、頼るのは陸海空の通常兵力です。また、今後の通常兵力の主力と目される「ドローン」にしても、拠点を確保するに越したことがないのは、要するに大型の「ラジコン」だからです。

 操作自体は「自律型」や、地球の裏側からでもコントロールできる仕組みがありますが、航続距離という現実があり、近くに拠点があればあるほど有利になることに変わりはありません。

 北方領土が敵国にわたれば、先の「サハリン2」は余裕で攻撃対象になってしまいます。

 つまり、ロシア側に立てば、日米同盟がある限り、日本が西側の陣営である限り、絶対に引き渡したくないのが北方領土なのです。

 そんな中で、ウラジミールは山口に遅刻しながらもやってきて、友好を演じて見せた。これだけでも大成功・・・ぼちぼち成功といえると私は見ています。

 自民党内からも異論がと、報じられていましたが、誰かと思って名前見れば、二階俊博自民党幹事長。19日に札幌市内で開かれた講演で

「けちを付けるようで悪いが、このぐらいのことで日本が喜んでいると思ったら大間違いだ。ちょっと物足りない(読売Web)」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20161219-OYT1T50102.html

 と苦言を呈したとか。二階幹事長といえば、筋金入りの親中派で媚中派。日露の友好的な接近は、中国の利益を損ねるので当然でしょう。

 ロシアと中国は利益でのみ繋がっていますが、どちらも長い国境線で接している潜在的敵国。日露が万が一にでも、軍事的に手を組むことがあれば、中国は二正面作戦どころか、当然のように南からはインドが圧力をかけてくるので、三正面作戦を強いられます。

 万が一どころか、億が一ぐらいのあり得ない話しとは言え、中国にとっては最悪の悪夢。そしてリスクは目の出る前に摘むのが理想的で、今後、中国が日に影に、日露間に横槍を入れてくることは間違いありません。

 この視点でみれば、民進党の蓮舫代表が「引き分けどころか、プーチン氏に一本取られた形で終わったのだとすれば、国民の一人としても公党の代表としても非常に残念だ」と批判的な評価を下す理由が透けて見えます。

 どこの国の国民なのでしょうかね。

 また、仮定の上での断定って一般社会では「思いこみ」っていうんですよね。井戸端会議ならともかく、公党の代表なら、具体例を挙げなきゃ。なお、遅刻で始まったと他国のプーチン批判をしていましたが、これは非礼。

 ともかく、難しい問題をとりあえず「スタートライン」につけたことをもって、私は評価します。

 一方で、プーチン来日に際して、北方領土が4島・・・は無理でも2島は帰ってくる・・・かも。と騒いでいたメディアのなかには、

「シベリア鉄道を延伸して海底トンネルで北海道へ」

 との珍説を拡散するところもありました。明確に覚えているのはテレビ朝日の「モーニングショー」です。

 技術的にはもちろん、可能。でも、ダメ、絶対。

 あの不起訴になったミュージシャンの疑惑と同じく、「地続き」は地政学上、不可逆性の麻薬なのです。

 平和において、平和を議論するとき、その破綻を口にしたがりません。トンネルなどその最たる例。両国の友好と理解に役立ち、観光や産業にも使える。しかし、一度「地続き」になれば、そこを通るのは平和だけではありません。

 戦車が通れば歩兵が渡れます。鉄道が敷設されていれば、「装甲列車」の復活だってない話ではありません。兵力や物資は文字通り「ピストン輸送」でき、海峡の水圧に耐えるトンネルは、上空からの多少の攻撃に耐えられ「要塞化」しますし、そこから横穴を掘って「出口」を増やすことは容易いことです。

 ことは対露の話しだけではありません。ロシアと中国は潜在的敵国同士ですが、利害が一致すれば容易く手を握ります。ましてや現在進行形で、東シベリアには中国人の事実上の入植者が相次いでおり、実はロシアの頭痛の種になっています。

 ここで入植者が反乱を起こせば、中国が自国民保護で乗り込む口実を与えかねません。もちろん、現時点での中露のパワーバランス上、考えにくいことですが、将来となればわかりません。

 欧州では英仏海峡トンネルのあちら側とこちら側で「難民」のやりとりで揉めています。同じく日露を結んだトンネルが開通した暁に直面する問題です。

 あくまで思考実験ですが、こんなシナリオも考えられます。

 日露をつなぐトンネルができたとき、シベリア鉄道を利用して東欧にあぶれた難民を「人道支援」として、東シベリアに移送しコミュニティを作らせるとします。

 そこには中国人がいます。かならず揉め事がおこるでしょう。異文化との接点が点と点(個人と個人)のときは、相互理解も可能ですが面と面(集団と集団)になったときに生じる摩擦は、世界各地の民族紛争が証明する人間の現実です。

 ところが終点と思われた東シベリアの先にはトンネルがありました。その先には日本があります。難民の受け入れに消極的、なる国政世論を喚起した先に待っているのは、中露の尻ぬぐいです。

 また、そこに「工作員」が入ることは避けられないことは、トルコなりフランスなりが証明していることです。

 難民の受け入れは、別の議論が必要ながら、トンネルができれば「なし崩し」になることは火を見るより明らか。外国人参政権を事実上認めている自治体は、実はとても多く、そこに大挙して押し寄せれば、合法的に親露、親中の自治体を作ることは可能で、果ては「自治区」を要請することもあるでしょう。

 これを拒否すれば、中露にとっては「自国民保護」と、ロシアがクリミア半島で行ったことが再現される・・・とは、妄想であることを願うばかりです。

 北方領土は日本に返還されてしかるべきです。とっとと耳を揃えて返せ、というのが本音。

 しかし、そこにあるように「領土」。ならば、相手にとっても重要で、これは「尖閣諸島」の侵略、簒奪を目論む中国においても同じながら、まるで

安倍首相「やぁウラジミール!」
プーチン「シンゾー、今日は北方領土を返しに来たよ!」
安倍首相「本当かい! ありがとう!」

 てな話しが、実現するかの期待が滲む時点で、領土への意識の希薄さに呆れる年の瀬でした。

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