軽減税率をめぐる、与党自民党と公明党の駆け引きを、「プロレス」という指摘は言い得て妙。八百長とは失礼な話し。大のプロレスファンで、一時期、新日本プロレスのバックアップもしていたというある社長の主張を要約すれば
「プロレス流の真剣勝負」
とのことです。
特に昭和のプロレスラーは、相手の技を受けに受けて、互いに全てを出し尽くした後に、立っている方が勝者になるのであって、結論が決まっていたとか、興行である以上、皆無とは言わないが、すべての試合にシナリオがあるというのは、あまりにもプロレスを知らないと。
10年ほど前に、この社長にご招待いただき、後楽園ホールで観戦しましたが、鍛え上げた肉体でなければ、あんな痛いことできはしませんし、僭越ながらこの社長の熱弁と、試合を見ての私なりの解釈におけるプロレスとは、
「戦う姿を見せる競技であり興行」
勝ち負けよりも戦う姿をファンに見せることで、勇気と明日への活力を与える興行。だから急所をつくのもありで、強さのみを競うことを目的とし、殺し合いに隣接するといって過言ではない総合格闘技等とは、そもそも目的が違うと。
そんなプロレス感から見たときの、両党の「駆け引き」はまさにこれで、予定調和の茶番劇というより、ガツンとぶつかりながらも、もっとも肝心なことは、それぞれの主張を呑ませるというより、それぞれの支持者に勇気を与える・・・もとい、納得させること。
なお、協議がまとまりかけた最終盤になって、突如「外食も含むのか」と横槍をいれたのが財務省とは、新聞各紙が報じているので、概ねその通りなのでしょう。いよいよ決着がつくかと思われた刹那、闖入してくる空気の読めない三流レスラーといった役回りでしょう。
また、軽減税率が既定路線に乗ったことで、増税延期が既定路線にはいったとは、総合独立研究所所長 青山繁晴氏の12月2日のラジオでの指摘。
軽減税率は難しいからまとまらない、なら低所得者を直撃する増税は難しいよね。増税の再延期は不信を買う。やるなら増税凍結。ならば、国民の信を問うての衆参ダブル選挙。増税しないを旗印にすれば民主党を壊滅に追い込め、衆院選なら改憲派でもある橋下徹の人気も利用できる。と。
一部は筆者の意訳。軽減税率が合意に至った時点で、青山繁晴氏の予想は外れ。この手の未来予想は、後出しジャンケンの方が有利であることを踏まえた上で、氏の主張を支持し、フォローするなら、増税延期や凍結の線はいまだ消えていないと考えています。
すでに「加工食品」への軽減税率適用が明らかになってから噴出しているように、「イートインは?」「出前は?」「食玩は」と、線引きの難しい事例は少なくありません。
また、あわせて新業態も登場することでしょう。すでに存在する、ショッピングモールのフードコートのような、「屋内テイクアウト」などその代表格。テイクアウトで提供しますが、店内のイスやテーブルで飲食することを前提としているかの形態が、どちらの税率になるかは未確定です。
さらに軽減税率適用が確定しているのは、分かりやすいものばかりで、新聞は「当確」がでていますが、雑誌や日用品は未確定で、今後の難航が予想されています。
すると来年の通常国会に入るまで「軽減税率導入した上での消費増税」としておきながら、なまくら野党の、批判のための批判を受ける形で、次第に「難しい」や「準備期間」が、とやっているウチに、中国経済、その前に韓国経済の、さらには原油安による世界経済の減速があきらかになれば、増税をしている場合ではないのは、エコノミストと経済学者、そして財務省以外の世界の常識。
実際、各種統計が悪いままであるのは、増税の影響は半年ほどと見積もっていた財務省の見通しの甘さというか、増税のための詭弁だったことは、3%から5%へ、5%から8%への増税で証明されています。
いつまでも増税をするなといっているのではありません。タイミングというものがあり、ベストなタイミングで言えば2020年の東京五輪です。否が応でも出費が嵩む時期で、かつ訪日客もガツンと増えるタイミングでの「増税」なら、うっかり仕方なくでもお金を使ってしまうのが消費者心理です。
これにはもう一つの消費者心理も関係しています。
97年に消費税が3%から5%に上げられる直前、バブル崩壊の影響は色濃く、実際には不景気のウォータースライダーを滑り始めていながら、一時的に景気が良くなったような統計となったのは、景気対策の影響もありますが、なにより、消費は習慣だからです。
平成を迎えた直後のバブルをピークとしても、戦後45年もの永きに渡り、インフレ基調の右肩上がりで、一時的な停滞はあっても、株価と土地の値段は下がらないと、誰もが信じていたのです。
思いこみがすぐに払底されるほど、人は合理的にできていません。だからバブル崩壊直後は、縮こまって見せてはいても、次第にそれにも飽きてきて、ちょっとの景気対策により皆がお金を使い始めた。その最たるものが「ウィンドウズブーム」。多少の無理をしても、新しいトレンドにキャッチアップしていけば、明るい明日が待っているかも知れないという昭和のベクトルが、使えもしないパソコンを買うための行列に並ばせたのです。
要するに、一度根付いた消費者心理は、ちょっとやそっとでは変わらず、いまは当時の正反対で、20年近く続いたデフレマインドは変わっておらず、明日のボーナスより今日の生活防衛に敏感なのです。
この冬のボーナス以降、徐々に8%増税の心理的なマイナスが和らぐのでは、という希望的観測もでていますが、実際には来年春の賃上げ、その後の賞与が増額基調となり、ようやく成長軌道、インフレへと動くことになることでしょうが、それから半年から、一年後の増税は早すぎます。
先の青山繁晴氏も指摘していたのが
「8%は計算しづらいが、10%ならすぐにわかる。これによる買い控えは想像を絶する(発言要旨)」
というもの。
だから、さらに数年、できれば2020年、あるいはその前年の2019年まで増税を延期すれば、2016年から数えて3年間にインフル消費を経験してしまった消費者は、
「急に倹約家には戻れない」
もので、増税の影響も限定的に抑えられるという見立て。
しかし、本来はこうした税の仕組みや制度は、もっと多様な議論を経て組み上げられなければなりません。日本共産党を支持はしませんが、それこそ「消費税廃止」という暴論でも、一秒ほどの検討は必要でしょう。
なにより「軽減税率」と題するのなら、食料品、とりわけ、お米や水道水、塩などは「消費税0%」や「3%」に戻すことだって・・・とこれが議論されていないところがプロレス。
ガチではありますが、急所はつかない。
まともな野党が不在の今、自公のプロレスは続きます。