ギリシャショックにみつけるネット民主主義のリスク

 これが現実の政治であり、可視化された外交だとしみじみと噛みしめた「ギリシャショック」。ざっくりといえば、ギリシャは借金の返済が間に合わずに、債務不履行=デフォルト状態になると、ユーロは売られ株価は下がりました。

 投資家は不安定要素を嫌うので、問題が発生すると一旦「避難」するので、株価や為替が一時的に大袈裟な値動きとなるのは否めません。

 そして日経平均の強さが確認されたのは、ダダ滑り的に2万円を割ることもなく、翌日はすかさず反発したことです。本日もとりあえず堅調。※執筆は7月1日

 経済規模では神奈川県程度のギリシャがデフォルトしたからと、世界経済に与えるダメージは、さほど深刻ではありませんが、問題は同じく経済不安を抱える、他のEU諸国への連鎖・・・ではありません。

 純粋な経済問題なら、解決は「金勘定」なのでむずかしくはないのです。しかし、ギリシャショックは「安全保障」に密接に絡みます。

 EUにとって最悪のシナリオとは、ギリシャのEU離脱で、その暁にギリシャがロシアや中国と軍事同盟でも結べば、中東から南欧の勢力図が塗り替えられる恐れがあります。

 もちろん、その途中には何段階ものハードルがあるので、今日明日の話しではありませんが、貧すれば鈍するというか、溺れる者の藁というか、EUという枠組みを離れたときに何が起こるか分かりません。

 なにせ

「しみったれた生活を続けろというのなら金は返さない」

 というギリシャです。緊縮財政を継続し、さらに強化しろと迫るEUに対して、反緊縮を掲げて生まれたのがチプラス首相です。また、貧困が極端な思想の政党を生み出す土壌になることは、ナチスドイツが歴史において証明しています。

 実際、ウクライナ問題も絡みますが、ロシア皇帝プーチンは、すでにチプラス首相の籠絡にかかっています。現時点では実現可能性は高くないと見られていますが、ロシア産天然ガスのパイプラインの建設で、トルコを経由してギリシャに到着すれば、ヨーロッパを南側から崩すことができます。文字通り「橋頭堡」です。

 また、軍港の寄港地としての打診もしており、実現すればクリミアの黒海から、地中海へと足場は拡大します。

 中国にしても「新シルクロード(一帯一路)構想」における地中海の終着駅にくさびを打ち込めるメリットは計り知れず、どちらの国も甘言で近づき、端的に言えばEUではお荷物扱いのギリシャながら、首相という権力の座についたチプロスにとって、ちやほやしてくれる「大国」の誘いは魅惑的です。

 さらに妄想豊かな私が懸念するのは「ISIL(イスラム国」」のギリシャ浸食です。

 ギリシャと言えば、文明史においては古代ローマ帝国の兄貴分として燦然と輝きますが、東ローマ帝国の崩壊以後、イスラムのオスマン帝国の支配下にありました。

 また、対岸国とは地中海を介した交流があり、いまでもトルコなどから税関を通さない人物の流入があるとされています。社会への不満から、「ISIL」に参加する若者はいまだ絶えず、国家単位でそこへ走らないと断言できないほど、ギリシャは欧米世界における常識から逸脱しており、何が起きても不思議ではありません。

 だからドイツのメルケル首相が「いつでもギリシャとの交渉に応じる」とコメント発し、フランスのオランド大統領もメッセージを寄せ、ギリシャ国民に「賢明」な選択を呼びかけているのです。

 EUはギリシャとともにあると。もっと踏み込むなら、チプロスがバカでも、国民は賢明ですよね。と。

 同じ通貨を使うEU加盟国同志とはいえ、他国の経済政策を指図し、他国民に呼びかけるのは内政干渉。しかし、そうしなければならない理由はギリシャの国内事情にあり、以下、ネットで拾った風聞で、裏を取っていませんが紹介しておきます。

・労働人口の3割に達するといわれる公務員天国
・仕事は午後3時で終わる
・公務員の多くが別荘を所有している
・公務員の平均給与は民間の3倍
・公務員の年金は、ほぼ現役時代の全額支給

 つまり「構造改革」をしようとすれば、公務員が組織する「労組」の抵抗にあい、2012年はアテネ市内で800件も「デモ」が発生したそうです。

 そして公務員がそうなら、民間も負けてはいられません。

・脱税が半端ない

 ざっくりといえば、日本の消費財のようなVAT(付加価値税)は、穴の空いたザルで、その気になれば、いくらでも裏道抜け道があります。また、標準税率は23%で、1万円の商品に2千3百円の課税の負担感は重く、脱税するメリットが上回ると見られています。

 この点は、日本の財務省も学ぶべきで、目の前に見える税率が二桁を超えると、脱税するインセンティブが高くなり、脱税で取り損なう税収と、徴税コストの増加から、旨味が薄くなるといわれているからです。

 折角、日本には「源泉徴収」のように、国民が負担感を覚えにくい徴税システムがあるのですから、こちらの「活用」も検討すべきで、納税意識を目覚めさせる「消費税」には謙虚になるべきなのです、とはイヤミですが本当。

 社会システムの変化もあるので、一概にはいえませんが、政治の「ワイドショー化」が進んだのは、平成が始まったと同時期に導入された消費税と無縁ではありません。

 ワイドショーを永らくウォッチングしていた体感値として、1997年の税率変更以降、「政治ネタ」が増えたのは民主党の躍進による政権交代の期待だけではなく、庶民にも理解できる怒りが用意されたこともあります。

 もちろん、朝日新聞が「社是」として政治闘争の色を隠さなくなったことで、政治活動への電波利用というタブーが解禁されたことも理由のひとつですが、一例を挙げれば、98年末にイトーヨーカドーが口火を切った伝説の販促「消費税還元セール」など、庶民感情が政府批判へと直結した事件で、もちろん、ワイドショーは大々的に報じたものです。

 つまり、消費税率の単純なアップは、庶民の政治参加意識と言うより権利意識を肥大化させ、不安定な政権運営の要因となりかねず、結果的に国益を損ねやすいということです。税金を取るなとは言いませんが、上手くだまし取れば良いのにと。

 しかし、日経新聞を筆頭に、どうみても財務省の息のかかった「増税推進」の記事が増えている気がしてなりません。

 北欧諸国のように、高負担でも高福祉と、国民教育によりモラルを維持している国もありますが、ギリシャのような国があるのも現実だということを、日本の財務省は他山の石とすべきです。

 ふたたびギリシャの公務員に戻れば

・賄賂も半端ない

 とあります。
 そんな国であり国民です。内政干渉でもしない限り、返済など不可能でしょう。

 さて、ギリシャショックが明らかにしたことの一つが、

「ネット民主主義」

 の限界です。ネット出身の評論家やオタクや、知ったかぶりの新進気鋭の自称ジャーナリストのテレビ芸者らが、選挙が近づくと繰り返すタワゴトで、

「ネットで集めた民意で政治を動かす」

 というもの。

 具体的な手続きは、論者により様々ですが、要するにネットによる意見集約で、ネットというツールにより可能となった直接民主主義の実現を目指すものです。

 これが「無理」ということを体現して見せたのが、ギリシャのチプラス首相。

 EUによる財政再建を飲むか否かと迫られたチプラス首相は、

「国民投票で賛否を問う」

 と「民意」を盾に、時間稼ぎとEU側からの妥協を求めます。6月30日の期限に対して、国民投票は7月5日。あからさまな「時間稼ぎ」ですが、ギリシャ国民の「民意」に、民主国家なら反論できないだろうという浅ましくも浅はかな考えです。

 これにデフォルトもやむなしと怒髪天を衝いたのがEU側です。

 下品な言葉にすればこんなところでしょう。「なめんなよ」。

 首相か大統領かはさておき、一国の代表者と遇して交渉してきたのに、最後の決断は「国民に丸投げ」。一般企業に例えれば、倒産寸前の企業の社長に、債権者が提示した会社再建計画について「社内会議での多数決で結論をだす」と回答するようなものだからです。

 首相に全権委任するための選挙であり、制度です。それが案件毎に国民に測るような国を信用などしません。というより、交渉など出来ません。だからEUは最初からギリシャ国民に問いかけることを決めたのです。

 うっかりすると忘れてしまいそうになりますが、EUはギリシャの母親でもなければ保母さんでもなく、主治医ではありません。あくまで同等の関係性があるから、金の貸し借りをしているのです。

 上下の関係なら「支援」と呼ぶか「上納」で、後者ならば植民地支配です。

 あきれたメルケルやオランドは「ギリシャ国民」に直接呼びかけることにしました。国民の総意を、つまりは「民意」を他国の指導者が誘導しようとしているのです。内容の是非、正当性はともかく、ギリシャは既に国家ではないということです。

 これが「ネット民主主義」が万が一実現した先に待つ未来です。

 重大事案を決定する際、差し詰め今なら「安保法制」について、「国民投票」で決するようなものです。紙への記入か、オンライン化はつまらぬ技術論に過ぎません。

 案件の可否を国民にいちいち確認するようでは「外交」などできません。日米同盟も「外交問題」です。そこには「仮想敵国」に知られてはならない機密もあります。安保法制を巡る国会審議で、バカ野党(民主党)が

「敵国はどこか」

 と訊ねていましたが、国会という公の場で国政を預かる連中達の話し合いで

「中国」

 あるいは

「北朝鮮」

 または

「ロシア」

 とさらには

「南朝鮮」

 と答えた日には、事実上の

「宣戦布告」

 と捉えられても反論は困難です。

 まさに社民党と日本共産党、またバカ民主党からは辻元清美が繰り返す

「戦争法案」

 となりかねません。

 可否を国民に問うとは、公開に適さない内容まで晒さなければならず、ましてや「重要案件」に絞り込めば、絞り込むほど事態は深刻になります。

 また、現在、ギリシャで実現しているように、他国の介入も日常的に行われるようになるでしょう。他国が民意を扇動できるようになるからです。

 極論をすれば

「自衛隊があるから戦争に巻き込まれる。よって自衛隊を解体し、すべての武器を6ヶ月以内に破棄する法律」

 が審議されたとします。私見妄言なので実名を記しますが、中国共産党の軍隊が、尖閣や小笠原沖などに軍を派兵し威嚇します。すかさずスポークスマン華春瑩氏が

「日本の自衛隊解体を歓迎する。我が国は、東アジアの安定のために、自国の海域及び、接する日本海行きの安全のために労を惜しまない」

 とコメントを発し、自衛隊の解体は日本の平和につながると、国内巣くう「親中派」や「工作員」をメディアに登場させ、きっと朝日新聞や毎日新聞も、工作活動に汗を流すでしょうが、そして生まれた「フワッとした民意」が国益を毀損する・・・可能性があるということです。

 安全保障のイロハも知らない、一般国民が決定するとは、事実上、他国の干渉に、いま以上に晒されるということです。

 その結果、7ヶ月後、日本はなくなっているかも知れませんが、それも含めて「民意」を尊重するというのならそれも一つの見識でしょう。賛成しかねますが。

 民意が正しい決断を下すとは限りません。まして専門性の高い案件を処理できる民意などありません。民意は専門性から遠いところにあり、民意とともにあるなら、それは「一般常識」だからで、いわゆる一般的な選挙で反映させることができるものです。

 そして議会制民主主義にしても、大統領制にしても、民意を具現化した政治家の存在が大切であるのは、政治家が特別な能力を持つからではなく、ありありと見せつける「失敗」の象徴としてです。先の民主党政権が見せつけてくれましたし、最近の自民党の目に余る自爆も同じです。

 もちろん、ギリシャも。

 往々にして民意とやらは、政治屋を選んだ責任から目を逸らしますが、それでも選んだ政治屋をスケープゴートにすることで、わずかながらも反省をすることもあります。

 いま、EUからの離脱を迫られたギリシャ国民が、自らが選んだチプロスの無能を見せつけられ、少しだけ反省しているように。

 ちなみに今朝の産経新聞「湯浅博の世界解読」によれば、

“チプロス政権は民主党の鳩山、菅政権を足して2で割ったようなポピュリズム政治である”

 なるほど、政治は国民を写す鏡とすれば、この迷走は必然なのでしょう。これも含めて他山の石としなければならず、また、ここまで見事に分かりやすい民主主義の暴走というか限界の露呈は、問題点を考える上で、人類史上、貴重なケーススタディです。

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