小池百合子氏率いる「希望の党」が2017年10月6日午前9時より記者会見を開き、その政策を発表しました。「都民ファースト」のコピペに、脱原発など一部加筆で、その大半が「議論をすすめていく」というもの。
私はこう考えます。「議論してから政策を発表せよ」と。
その代表が「ベーシックインカム」。まず、「ベーシックインカム」を1分で解説します。
ベーシックインカムの歴史は古くトマス・モアが1516年刊行した「ユートピア」にそのひな形があり、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンもその列にならびます。かつて米国のニクソン大統領が、真剣に導入を検討したこともあります。
ざっくりといえば、国民一人当たりに国家が毎月なり、毎年一定額の現金を支給するというもの。超バラマキ政策ながら、一方で健康保険や年金、その他の公共福祉を停止します。
世界中各地で実験が行われ、それなりに良好な結果も得られており、これをポジティブにまとめたルトガー・ブレグマン著「隷属なき道」が世界中でベストセラーに。そして古くからあった概念「ベーシックインカム」に再び光が当てられます。
ここまでが「ベーシックインカム」の説明。絶望の党・・・もとい、希望の党の政策は、まるでこの本の「あらすじ」のようです。だから、ベーシックインカムの現実を理解していません。それについても1分でまとめてみます。
希望の党がパクッたと見られる、「隷属なき道」にあるベーシックインカムの大前提にはAIの普及があります。小池百合子希望の党代表は「AIによって仕事を奪われていく人のためにベーシックインカムの導入を検討する」と説明しました。小池百合子氏にあるのは政局と野望だけで、中身がないとは政界通がそろって口にすることですが、なるほど、AIひとつからもそれが透けて見えます。
ざっくりといえば、AIが人間の仕事を代替することにより生まれた余裕分をベーシックインカムとして還元するというものだからです。ベーシックインカムは失業保険でも生活保護でもありません。職業の有無、年令性別所得を問わず一律に支給するものです。
後藤祐一氏(前民進党)が「世界中で地域や対象を絞って実験されている(要旨)」と補足しますが、ならば財源もあり、島嶼も過疎も都会の地域も管轄する「東京都」こそが、その実験にもっとも相応しく、「都知事」の立場をフル活用すればできる政策を、国家レベルで取り組むとはまるで民主党政権時代の「社会実験」の再来です。
はい、ここまで。いかに彼らがベーシックインカムを理解していないかがわかることでしょう。これらのことは、先の本を斜め読みしただけでもわかるレベル。これが政策ならば、国会議員はテレビコメンテーターでも務まる仕事ということです。
テレビといえば、この夏、テレビ朝日「モーニングショー」のなかで、そのクレーム力に定評のある玉川徹テレビ朝日社員の「人工知能が仕事を奪う」という企画のなかで「ベーシックインカム」を取りあげていました。
そこに出演していた有識者は「古代ローマでは食事の支度などは奴隷がやり、ローマ市民は働かなかった。奴隷に替わるのがAIだ」と指摘します。
一種のAI万能論であり、テクノユートピア論という幻想である理由について、またまた1分で説明します。
AIはすでに「日本語変換ソフト」などで普及しており、今後は税理士、会計士など、一定の法則に従う業務を担うことになるでしょう。自動車の普及で飛脚がいなくなり、DTPの発展が写植屋をなくしたように、技術の発展により消えていく職業があるのは世の常です。一方でプログラマーに代表されるように、新しい技術とともに生まれる職業もあります。
ただし、AIはプログラムであり、様々な作業を道具の進化としてのアシストはしても、人間を完全に代替することは不可能です。それはAIではなく「ロボット」の出番となります。
また、古代ローマにおける奴隷には家庭教師や医師もいて、現代的価値観の「奴隷」とニュアンスが異なり「自分の人生を選択できる自由がない身分」のことで、当時のローマは「植民地経営」もしており、こうした諸事情をすっ飛ばしての例示は、理想論でなければ妄想に過ぎません。
AIに関するこの手の空論は実に多いのですが、それを政治家が鵜呑みにする粗忽さは、希望の党が持参金付きで受け入れる民進党の前身、民主党における「永田偽メール事件」を彷彿とさせます。
ところが、ここに小池百合子氏が、政策はなく中身がなくとも、政界渡り鳥として政界にあり続けた理由があります。最後にこの理由を1分で説明して本稿を結びます。
ベーシックインカムとはバラマキ政策で、民主党が政権交代したときの「高校無償化」や「子ども手当」と同じです。貰えるもなら貰いたいと考える庶民は多く、政策の違いは理解できなくても、目先の損得は計算できます。
政策を発表する小池百合子氏の発言は、キーワードを並べただけの空疎なものでしたが、マスコミはキーワードを拾い集めた「要約」を記事として報じます。そこに「ベーシックインカム」と未知の単語があれば、紙幅を割いて解説を余儀なくされます。
さらに、小池氏は会見で「AIからBI(ベーシックインカム)へ」とスローガンを語りました。「これを見出しにしなさいよ」というメッセージに飛びつくマスコミは多いことでしょう。実現のためのロードマップは一切示さず、マスコミにネタを提供する。これが「小池劇場」です。
マスコミの踊らせ方を知っていること。小池百合子という政治家の正体はマスコミといっても良いでしょう。
最後といいながら、「小池劇場」について少し補足しておきます。
新聞などの「報道」は建前上「ファクト(事実)」を報じることになっています。するといまだ世界中で結論がでていない「実験」を失敗と断じて報じることはできません。そこで実現が怪しくても、政策として掲げた「事実」を伝えるしかできません。
都知事選挙や都議会議員選挙で、小池百合子氏がまざまざと見せつけた手口です。
そして発表内容と会見内容から見る限り、希望の党の政策は看板だけで、ハリボテというより「書割(かきわり)」。「書割」とは歌舞伎の背景を指し、立体的な構造物ではなく「絵」だけで表現でき、さらに分割して持ち運びも便利で、舞台ではお馴染みの大道具で、当然ながら実体は伴いません。
コピペに加筆ですから、立体によりそれらしく見せる「ハリボテ」より手抜きですが、書割があった事実をマスコミが報じ、その深い意味を考えもしない国民が、目先の利益でステージにかぶりつく。これが小池劇場です。