副題は「ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正」
シャープの元副社長で、101才でご存命の伝説の技術者。
本書ほど評価の分かれる評伝はないでしょう。
私が奨める理由は1点。わかりやすさ、です。
小学生時代に読んだ野口英世などの偉人伝のように軽快なテンポで人生が進んでいきます。苦境も苦難もほぼ数ページから十数ページで解消され、熟読タイプの私でも2時間ほどで読了できました。
それは戦後のエレクトロニクス産業が、一足跳びに階段を駆け上がったからでもあり、ソニーとの競争、無名時代のインテルはもとより、ノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈博士でさえも、一幕の脇役どまりです。
トランジスタの開発から、カシオとの電卓競争。そしてその先へと「ロケット」のような早さで過ぎ去っていきます。
なお、異名の「ロケット」はアポロ計画への協力から。
大人の偉人伝をお探しの方にオススメです。
なお、評価が分かれるとするのは、アマゾンの書評で辛辣に批判されているように、不正確な叙述が目につくこと。潜水艦のところなどは眉唾。若き日のスティーブ・ジョブズや孫正義との出会いも、いささか演出過剰。
それとサムスンへの技術供与が、シャープの首を絞めたことを美談化するのは果たしてどうか。その対比のためか、シャープを身売りへと追いやった経営陣へは手厳しい。
というより、シャープ創業者の早川徳次の番頭だった、佐伯旭の独裁体制を一方的に糾弾するのはどうでしょう。仮にも経営者なら、佐々木正氏にも応分の責任があるはずでしょうに。
奥付を見て筆者が、日経新聞の元記者で「日経ビジネス」の編集委員と知りやたら納得。
企業広報的は彼らの主要産業で、潰れて「今後」がない企業には手厳しいのも彼らのやり方。
いずれにせよ正確性を求めるならオススメしません。ざっくりと戦後の産業史を駆け抜けた男の「ものがたり」として、エンタメ性を求めるなら絶賛します。
占領を前提とした、狡猾な米軍のやり方を、批判ではなく称賛するところだけはいただけませんが。
■ロケット・ササキ
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