彼女の物語|あるレイプ被害者のその後の人生

彼女の物語|あるレイプ被害者のその後の人生

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セカンドレイプを避けるために、当人を特定できないよう手を加えていますがノンフィクションです。高畑裕太容疑者の報道において、母高畑淳子氏との関係性からか、「強姦犯」を庇うかの報道はおかしいと考えます。初出は2007年ですが、「被害者」について少しでも知っていただければと加筆修正しアップロードします。

 

 

決して不幸ではない。今が楽しいと彼女はいう。北関東出身で、今は関西の中堅都市に住んでいる。

シングルマザーとなって以来、実家に連絡を取っていない。

20才で子を産み、全てから逃れるように関東を後にし、わずかな知り合いを頼りに関西に渡った。

東京ではすでにバブルは崩壊していたが、地方に波及するまでのタイムラグが幸いした。

「若くて可愛い」

は最大の動産なのだ。夜の商売をしながら子育てしているシングルマザーは少なくない。夜の街では子供のハンディにならない。その存在を隠すのも一手だが、妙な義侠心から贔屓にしてくれる客も多く、いざとなれば子供を理由に切り捨てることができる、都合の良い女とみて近づく男もいるからだ。

恋いもした。分かれもあった。そして子供がいた。すっかり慣れたつもりの関西弁に、ふとした瞬間、とてつもない違和感を覚え、遠くまできてしまったと鏡のなかの自分に問いかけ、遠き島より流れ着く椰子の実のように、身を寄せる岸辺はあるのだろうかと答えのない答えを求めて、あの過去を消しゴムで消したい気分になるときもある。どれだけ望んでも不可能なのだが。

子供の笑顔だけが「今の幸せ」という現実に引き戻してくれる。

コツコツと貯めたお金でマンションを買った。全ては子供のためだ。いつ、何が起きても、家があればなんとかなる。

世間がいうところの「蒸発」をした時の経験則だ。人間住むところさえあればなんとかなるものだ。

引越の日は1月10日。松は明けていないが、一にでも早くマイホームに住みたいと
その日に決めた。

狭いアパート暮らしの荷物を全て入れても、まだ余る新居に無造作に子供オモチャを並べてみる。

足の踏み場がある。

なんて素敵な言葉なのだと彼女は悦に浸った。そして一週間後。

部屋は大きく揺れた。未明のことで、とにかく子供だけはと抱きしめて、揺れが収まる
のをまった。

母子2人だけの生活にさほどの家具はいらず、これが幸いした。「全ての家具」は倒れたが、母子の生存スペースは充分に残してくれたのだ。

大きな地震だったなぁ。

ぐらいに考え、家具は好き勝手な方向に倒れ、食器が割れ散らかったダイニングを眺め、片づけの大変さに目がくらみそうになったが

「ママ、凄かったなぁ」

と、すっかりネイティブな発音の関西弁を操る息子が無事だっただけでも幸いと考えるしかない。

後に「阪神・淡路大震災」と名付けられることになった地震で、命があっただけでも良しとするかとベランダから外を眺めると、世界が傾いている。へんだ。

マンションが傾いてしまっていたのだ。念願のマイホームに住んだ期間は1週間。住宅ローンの残りは4000万円。

それでも彼女は笑った。笑うしかないと。

さて、彼女はシングルマザーだが、息子の父親欄には名前がある。

中学生以来の親友のカレシの名前だ。そのカレシと性的交渉どころか、二人きりで会ったことすらない。事実はともかく将来成長したときに父親不在よりも名前だけでも父親がいるほうが良いだろうという20才の結論だ。

親友もカレシも彼女も皆20才。若い頭脳が集結しても文殊様にはほど遠い。本当の父親は北関東から一緒に「上京」してきた、高校の同級生だった「男」だ。

高校を卒業した2年前、二人は上京し同じ職場に勤めた。独身寮があったからだ。彼女は地元にいたかったが、環境が許してはくれなかった。

彼女も男も漠然と、結婚をするだろうと考えてはいたが手段も方法もわからず、バブルの絶頂期へと駆け上がる「東京」は、北関東ののどかな空気とは違う、ギラギラとしたエネルギーに溢れ、堅実な人生を歩もうとする若者を笑い飛ばしているようにも見えた。

すでに道を踏み外していた彼女にとって、それは救いだった。堅実な当たり前の人生というものを、取り戻すことができないその道を、馬鹿にすることで諦めることができたからだ。

「あのことをこの街の人達は知らない」

自分のことを知らない人だらけの、東京という街では少しずつ傷が癒えたかに思えた。そして新たなチャレンジをすることにした。転職だ。

出会いは運命の女神の演出によるものだという。

転職先への初めての日、朝一番のつもりで出社すると、すでに雑巾掛けをしている男がいた。

彼は彼女を担当部署に案内をした。3ヶ月後、彼女は彼と同じフロアの隣の部署に配属された。偶然が2度も続けば惹きつけあう引力の法則を人類はいまだ発見できていない。

年上だと思った彼は、同い年だった。ぐっと距離が縮まった気がした。彼女は彼の告白に頷いた。そして一月後、告白する。男がいると。

転職した際に別れを切り出したが、そのたびに逆上して暴れ、暴力もあった。転居し、自然消滅を狙うと、転居先のアパートの下で待ち伏せしていた。

「あのこと」以来のつきあいがあり、無碍にもできず、強引に身体を求められ、拒否すれば暴れられる。事実上のレイプだが、「あのこと」があった自分を、東京へと連れ出してくれた恩義を感じている男を、犯罪者にするわけにはいかない。性行為を許した理由を、人類愛以外に求めるのは困難だった。

しかし、東京育ちの新しい彼と比べてしまう。好きなのは新しい彼だ。

別れていないことを告げられなかったのは、新しい彼を失う恐怖と、彼が男と顔を合わ
せることで起こるトラブルを怖れていた。そして何より、自分の過去を知られることを怖れていたのだ。

男と別れられないでいると告げたとき過去も話した。新しい彼は泣きながらすべてを受け入れてくれた。一緒になりたいと考えていると言ってくれた。家族にも会わせてくれた。過去もひっくるめて背負っていきたい。一緒に歩いていきたい。

下手なプロポーズだとは言わない。下手な日本語だ。背負った相手と一緒に歩くことは出来ないからだ。それでも彼女には充分だった。

男とはちゃんと別れててくる。
今回だけは一人でいかせて欲しい。

そう言う彼女に、彼は宝物にしていた貝殻をお守りがわりに渡した。幼き日に拾い、何度も磨いた貝殻だ。

「いつでも駆けつけるから、俺だと思って持ってて」

青春というのは残酷なほど愚かだ。20才の彼の脳味噌にはおがくずと、ハーレクイーンロマンスが詰まっている。もしくは安物の青春ドラマのカーボンコピーが。

一睡もせず抱きしめあい、夜明けの太陽が二人を引き裂いた。

別れ話に向かった彼女は、その日から彼の前から姿を消した。音信不通となり、職場も自然解雇となった。いわゆる「蒸発」だ。借り上げ住宅として提供されたアパートの荷物は、彼女の両親が引き取りに来たという。

別れ話が不調となった直後、彼女は吐き気に襲われた。ベタ過ぎる話しだが、つわりが彼女のもとを訪れた。

彼女にとって2度目の妊娠だった。だから、生みたい。すでに心の通わない男との未来はない。しかし、子供は生みたい。

一度目の受精をしたのは、夏祭りの夜、バイトの帰り道。早く帰宅して浴衣に着替えて親友と遊びに行くために近道した空き地だった。

見知らぬ中年男が父親だ。ボロ雑巾のように性のはけ口にされた。強姦魔はいまだ捕まってはいない。噂を怖れ被害届をださずにいたが、人の不幸は蜜の味。どこかで誰かが拡散する。

性被害にあった17才の女の子に、口性のない近所の噂が追い打ちをかける。隙があったのではないか、誘ったのではないか。ちょっとした有名人の誕生だ。

命は尊く、地球よりも重いものなのだろうが、彼女は授けられた命を殺すことにした。

「腫れ物に触るように」という言葉を体感していたときに、元気な声で接してきたのが、その一年前の夏祭りで告白され

「ゴメンナサイ」

と交際を断った男だった。後に我が子の父親の「名前」となる彼氏を見つける親友を除いて始めての援軍に感じた。

本当は短大に進学する予定だった。

成績は中の中だったが、先生の覚えめでたい明るく優しい子で推薦という手段もあった。

バイト先でコーラを紙コップに注いでいる際、氷を多くするとコーラの量が減っちゃうな。じゃぁサービスで氷ナシにしたら、お客さんが喜ぶぞと「氷ナシコーラ」をだして、クレームをうけるぐらいの優しく、抜けている加減も愛されていた少女。

進学は取りやめた。推薦を検討するにも値しない成績に急降下したからだ。

あの日から、フラッシュバックのように蘇る悪夢と、周囲の好奇の目に晒され、教科書と対峙しろというほうがムリだろう。なにより、彼女は人殺しと自分を責めた。

そして、男との上京を選び、家族もまたそれを認めるしかなかった。男が執拗に別れを拒んだのは、男もまた、彼女を一生守るつもりでいたからだ。

大震災から2年後、彼女は置き去りにした彼と再会した。彼が子供の存在を聞いたのは、その時が始めてで最後だった。

「俺の子供じゃないの?」

しっかり、避妊をしていた彼が訪ねると、「そうかもね」といった彼女の笑顔は、だったらいいねと、過去と決別するためのものだった。

あの朝以来の再会で、別れを互いに確認した。

突然消えた彼女への思いを引きずっていた彼にとって、お守りとして渡した貝殻をその時までずっと持っていてくれたことだけが救いだった。

そして互いの運命の輪はもう重なることはないかも知れないが、しかし、その一瞬だけでも真実の愛がそこにあった・・・と、思いたい生き物が男だ。

北関東の普通の家で普通に育った少女。いまでいう「天然キャラ」で真面目だけが取り柄。短大に進学して、結婚相手を見つけて幸せな家庭を作ることを夢見ていた少女。

少女が上京してからの人生は彼女が選んだもの。しかし、その選択にはあの夏祭りの夜の後悔がつねにつきまとっている。

北関東から東京を経由して関西へ。
彼女は今も住宅ローンを払い続けている。

 

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