被災地と革手袋
近所のある「犬仲間」は重機をあつかう仕事をしているようで、震災で仕事にならないとぶらぶらしていたら、復興・・・というより、救助の一助にと狩り出され、震災直後の被災地にはいりました。
現場作業は亀の歩みにも似たのろさ。二重事故を避けるためには仕方がありません。そうは思いながら、言葉に出来ない苛つきを感じ、夜、津波でなにも無くなってしまった数日前までの街だったエリアにクルマを走らせます。
漆黒に動く影。いま、被災地のタクシーが、たびたび幽霊をのせていると話題になっていますが、やはりこの人もそう思いびびります。
しかし、もし足がなくても、迷い出た無念に手を合わせるぐらいはしなければと車を寄せます。後続車などいませんが。
影に近づくと親子でした。生きている人間です。中年の女性とうら若き乙女といったところでしょうか。手は泥だらけ。平時なら不気味なシチュエーションながら、二人は少し笑顔を見せて挨拶をします。
何をやっているのかと訊ねたら、お父さんが流されて・・・ここにいるかわからないけど、早く助けてあげたくて。
スコップやツルハシなど持たない被災者で、素手しか頼るものがなく、頼りの柱だった父親の魂の安寧のためにも探していると。
彼にはなにもできず、クルマに積んでいた作業用の革製の手袋を見つけると、せめてこれをつけてと渡したら、ありがとうと笑顔がこぼれたと言います。
クルマを走らせ彼は泣きました。被災地になんか来たくない。
本音です。
阪神淡路大震災でも同じく狩り出され、同じ思いをしたそうですが、それでも声がかかれば躊躇いはしない。
イヤだけどねっと添えて笑いました。