チルダを探して1時間

 ホッとするニュースが入ってきました。

 経済協力開発機構(OECD)が8日に発表した、「国際成人力調査(PIAAC)」で、日本は「読解力」と「数的思考力」において首位をゲット。

 16~65歳を対象にした調査で平均点の高さで逃げきったようです。

 一方、同じくOECDによる学習到達度調査(PISA)による15才を対象とした2009年の調査では、数学的リテラシーが9位、読解力が8位に沈みます。もっとも読解力においては、2003年、2006年の調査では「トップテン圏外」だったことを思えば、回復基調にあると言え、元凶は疑うまでもなく「ゆとり」です。

 教員の質の向上の議論、少人数学級などの課題は脇に置いたとしても、「ゆとり以前」の方が成績が高いと言うことは「つめこみ」には一定の、いや平均点を世界一にする学習効果があるということです。

 究極的にいえば、人間の認知も行動もパターン学習の組み合わせに過ぎないので、多くのパターンを刷り込む「つめこみ」に効果があるのは当然のこと。どこまでつめこむかといった量の議論をすっ飛ばして「考える力」という抽象的概念を持ち込んだ文部省の敗北です。

 もっとも子供のことではなく、教員の職場環境を週休二日にするために考えた屁理屈ですから、そもそも学力向上という土俵にすら連中はあがってもいないわけですが。

 と、始めましたが、今回は学力や教育の話しではありません。

 PIAACでは同時に「情報技術(IT)を活用した問題解決能力」を調査しており、こちらは10位でした。日本の大人は読み書き算盤はできても、いまだにパソコンを得意としない実態が明らかになったということです。

 プログラマから数えて四半世紀。BASICに目を輝かせた少年時代からは30年以上、コンピュータに関係してきた私の経験則として断言します。

「パソコンを習得する方法は『つめこみ』しかない」

 有名な格言「習うより慣れろ」も同じです。強制性を連想するつめこみと印象はことなりますが、やることは同じです。のべつまくなし触っていれば、パソコンなど簡単に覚えるものです。

 ところが職場を見渡せば、ひとりやふたり、あるいはもっと多くのこう語る人がいることでしょう。

「いやぁパソコンが苦手でね」

 ウィンドウズ95が発売されてから18年。蝉のように土中に引きこもり、達磨大師のように洞穴で修行でもしていたのでしょうか。

 いや、あなたと席を列べているということは、人間社会に生息していたはずです。

 オジサン、オバサンだけではありません。若者にも多く、彼らは義務教育期間中に「パソコン」の授業を受けたにも拘わらず、苦手なまま卒業していきます。さすがにまったく操作ができないという人は希少種でしょうが、得意ではない、実はほとんど使い方が分からないと言った「隠れ非IT」は、むしろ近年増えています。

 OECDは何を調べたのかと言えば、端的に言えば「情報処理能力」で、電子メールの整理や、表計算の扱いなどのスキルです。

 爆発的に普及・・・・させている。ガラケーがなかった世界はともかく、便利に特化したガラケーの販売を絞ったのは、ドコモとauとソフトバンクです・・・はともかく、そのスマホで表計算ソフトを駆使しているという話しは寡聞にして存じません。タブレット端末を使って閲覧しているケースならありますが、タブレットを主端末として資料作成しているのはレアな話しです。

 スマホの普及により、日本人のITリテラシーはより低下していくというのが今回のテーマです。

 わたしはパソコンマニアではありません。確かに小学校6年生のころに、『ベーマガ』や『I/O』といったコンピュータ雑誌に目は輝かせましたが、それは近未来を感じさせるオモチャとしての興味です。当時は高価すぎたマイコン(いまで言う、パソコン)に手など出るわけもなく、秋葉原の電気店や、北区赤羽に忠実屋に解説されたマイコンコーナーに出掛けて触るのが関の山。

 中学に上がりしばらくもせず、校内を支配する暴力との付き合いの前には、電子情報など身を守る盾にならないと興味を失いました。

 高校卒業を控えた1月。思うところあり就職活動を始めます。アルバイト先の喫茶店に就職するつもりで、マスターご夫婦からも誘いを受けていました。

 喫茶店と言っても席数30席はあり、ランチとディナーメニューを用意した食事処で、そこのお嬢様と一時期お付き合いをしていたこともあり、なんとなくそのまま就職する流れになっていたのです。

 就職活動を始めたのは亡父の言葉。

「おまえにはサラリーマンになって欲しかった」

 やんちゃと放蕩の末に流転の人生を歩んだ父の本音だったのでしょう。安定した月給とボーナスを貰える仕事に就いて欲しいとは。手術をしたものの末期な癌は取りきれず、あとは奇跡と寄り添う日々の中で「親孝行」なるものをやってみようかというイタズラ心もあったのかもしれません。

 扉を叩いた進路指導室で、先生は呆れていました。卒業式まで残すところ6週間です。

 想像に過ぎませんが、金融ブラックリストに名前が載っていたであろう母親(当時、蒸発中)の名前入り、戸籍をだしたためでしょうが、某金融機関(後に破綻、ザマミロ)では筆記試験すら受けさせて貰えませんでしたが、お陰様で後に沢山のことを学ぶことになるソフトハウスへの就職が決まり、ここで「パソコン」と対峙することになります。

 イヤも応もありません。プログラマーという職種はパソコンを操作できなければ、飯が食えないのです。厳密には当時のプログラムは手書きだったので、(キー)パンチャーと呼ばれる入力代行業者に外注することもあり、パソコンの操作ができなくてもプログラマーになれはしましたが、むしろ入力代行などは下っ端の仕事で、そしてパソコンを覚えました・・・が、いまでもそうですが、仕事に必要でないと判断したものは、一切覚える気がなく、いびつな知識とスキルだということは弊社の最高機密です。

 だからより感じるのです。スマホによるレベル低下を。

 かつてメールを送るには、メーラーを起動し、アドレスを入力し、その入力先も宛先、CC、BCCと能動的に選択しなければなりませんでした。スマホなら相手を指定して本文をいれるだけです。

 その前に、パソコンでインターネットを閲覧するのも一苦労でした。電話カプラーまで遡りませんが、パソコンを買っても、通信回線は装備されておらず、本体のネジを緩め「ボード」を差し込み設定をしなければならなかったのです。

 オールインワンの「iMac」の登場が衝撃的だったのは、こうした手間からユーザーを解放したことであり、iPhoneというスマホに通じます。

 便利になるということは、こうした基礎的な知識、基盤技術に触れる機会がなくなるということです。

 顕著な例が「キーボード」です。ウィンドウズブームの頃、みなが頭を抱えたのがキーボード入力です。マウスは直感的に操作できても、文字入力で苦心しました。アルファベットに数字、仮名文字、記号と目移りし、「~(チルダ)」を探して1時間も笑い事ではありませんでした。

 ガラケーからスマホ。フリックなどの改善が加えられ、予測変換により頭文字を入力すれば求める単語が登場します。すると馬鹿馬鹿しくてキーボード操作を、ブラインドタッチを覚える気などおきません。

 社会人としてメールの送受信は必須となってもスマホで事足り、ネットの閲覧ならばお手の物です。さらにユーザーニーズがあるものはアプリとして提供されるので、インストールすれば間に合います。

 かつて「パソコン時代」ならば、メールとネットだけでもパソコンを買わなければならず、何かの拍子に

「うっかりとエクセル」

 を立ち上げて、なんとなく使ってみる機会もありましたが、スマホでそんな偶然は起こりません。起こる必要がありません。

 ホワイトカラーの会社員なら、パソコンと接することもあるでしょうが、業務報告などはグループウェアの限定機能を覚えるだけで、最近では個人のスマホからの接続を許す「BOYD(Bring Your Own Device)」というバズワードも登場しました。

 不運にもエクセルやワードで、資料を作らされる羽目に陥ることもあるでしょう。しかし、年に数度のことなら、つめこみにすらなりません。過去のデータを書き換えるだけなら、文字サイズの変更方法など忘れてしまっても実害がでることは希です。そして職場を見渡せば、ひとりぐらいは文字サイズの変更ができるものがいるので、その度毎に「ごめん」と前置詞を置き訊ねれば、教えてくれると高を括ります。

 また、こんな声もあります。

「スマホがあればパソコンはいらない」

 人によりけりな個人の感想を全体の意見にすり替えるのはウェブ業界の得意技ですが、スマホの「不便性」を語るものは皆無に等しく、すると日本人らしい「同調性」が発動され、スマホを不便と呼ぶことは非国民と誹りを受けます。

 余談ながらツイッターやフェイスブックの普及期に、異論を唱えていたのは少数派ですが、これらで問題が発生しても、この少数派が振り返られることはなく、礼賛していた連中の言い訳ばからが紹介されます。言うなれば増税後に景気停滞したとして、増税礼賛の財務省の御用学者に、その理由を尋ねるようなものです。だから、日本のウェブ業界は成長しないのです。

 話を戻し結論へ向かいます。

 OECDの調査により、日本の成人のITリテラシーの低さが証明され、今後も低下し続けていくことでしょう。スマホの普及により、人生のいかなる瞬間においても

「パソコンの詰め込み学習」

 するチャンスが喪失したからです。

 そしてこれが「慶事」であるのは、一定以上のパソコンスキルをわたしが持っているから。

 これで老後も安泰と胸をなでおろすニュースでした。
 もちろん、スマホ礼賛社会へのイヤミです。

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