電力会社は何が起きても潰されない

東電の再建計画が「認定」されました。

原発の再稼働や電気料金の値上げがうたわれ、そこにマスメディア
が噛みつきます。

昨日から東電のお客様担当の役員が、ワイドショーに登場しては
頭を下げまくっています。昨日はTBSの「ひるおび!」で、
今朝はテレビ朝日の「モーニングバード」。

立たされ坊主のような東電の役員に、MCを筆頭にコメンテーター
たちが集中砲火を浴びせる構図です。いうなれば

「公開リンチ」

下品です。役員とは言え、こうした汚れ仕事を割り当てられる
彼の立場をおもんばかるのが、昭和の日本人がもっていた価値観が
日教組により破壊され、安い正義感とテレビに出ているとちやほや
される全能感がサディスティックな本能を刺激しエキセントリックに
責め立てます。

昨日の「ひるおび!」のMCはお笑いタレントの恵俊彰さんで
日頃から「スタンディング」で進行しており、東電の役員と同じ
視点にたっており、また彼の持ち味でもある

「真綿で首を絞めながら、カウント2.5で逃がす」

追究の仕方で、不快感は緩和され、庶民の溜飲を下げる上手な
進行でした。すっかり弁護士の領分を越えて発言する八代弁護士は
・・・まぁあれとしても、まぁまぁ許容範囲。

ところが今朝の「モーニングバード」はいけません。
メインMCの羽鳥慎一さんが100円ショップで売っているような
正義感をもちだし追究します。例えば、震災前の電気料金を捕まえて

「そもそも料金は正しかったんですか」

と同じ質問を何度も繰り返します。俺は一途だ、ぶれないぞという
アピールかも知れませんが、圧倒的有利な立場で年長者に座ったまま
問いかける姿にこう思います。

「何様?」

さすが、お世話になった日本テレビを辞めた直後に、ライバル局の
ほぼ同時刻の番組に出演できる男だと眉根を寄せます。

しかし、番組が進むに連れて、羽鳥慎一さんが可哀想になりました。
損するのは彼だからです。

東電が発表し、枝野と政府が認可したピーク時に料金が跳ね上がる
新料金プランを、東ちずる嬢は

「家にいなければならないお年寄りや障碍者に不利(筆者要約)」

と批判します。あぁここでイラッとします。

これは料金プランのひとつであり、客が選ぶものであり、強制
するものではありません。ましてや、脱原発派の研究所の所長や
元官僚など、大阪維新の会と関係の深い識者が関西電力の需給
見通しに対して

「足りないのはピーク時だけ。そこを抑制すれば原発は不要」

と主張し、これには肯定的意見を述べていたのが「モーニング
バード」という番組です。ならば東電の「提案」も評価すべき
でしょう。

東電が提出して枝野と政府が認可した再建プランには原発の
再稼働ありきなので、議論が混在していることへの批判は当然と
しても、あらたな動きのすべてを否定するのは「イジメ」と
同じ構図です。

と、怒り心頭に発しながら番組を見ていると、コメンテーター
の質問に「それにつきましては」と、東電の役員がフリップを
差し替えます。そのとき、「モーニングバード」が

「ジャパネットたかた」

に見えました。

東電イジメもシナリオ通り。料金批判も予定通り。
羽鳥慎一を筆頭にコメンテーターが糾弾するのは思惑通り。

予定調和の台本通り。

つまりは「ガス抜き」です。東電の役員ひとりを生け贄に
差し出して、公開リンチにかけることで、

「そこまでしなくても」

という健全な市民感覚に働きかけるプロパガンダということ
です。だから、なまじっかの正義感でオジサンを糾弾した
羽鳥慎一さんだけ損をし、可哀想だと。元会社員のアナウンサー
としてはディレクターの指示通りになるのは仕方がないのかも
しれません。その点、海千山千の世界を生き抜いた芸人の
恵俊彰さんは、ここら辺のバランス感覚はさすがといえるでしょう。

さて、東電の役員。あしたはどの番組に出て頭を下げるので
しょうか。最後は番組中に倒れでもすれば同情票が上積みされ
完璧です。

そしていま東電批判に視線が集まり得をするのが、文中度々
敬称を節電した枝野経産大臣を筆頭とする政府と霞ヶ関の
お役人です。

そもそも論に戻ります。

「東電を破綻処理しなかったのは政府」

です。最初は菅直人。この時の官房長官は枝野。そして
いまの野田首相は何もしていませんが、破綻処理させなかった
共犯者を所管大臣に置いたのは野田で、ならば共謀共同正犯と
いうより現在の「首謀者」でしょう。

大きく分けて東電批判は「原発」「料金」「体質」でしょうか。
そして通底するのが「説明不足」であり、それをより求める
ベースには事故直後からの「不信感」です。不信感を得るに足る
行動を繰り返してきたのも事実です。

語弊を怖れずに言えば「犯罪者」であり「容疑者」で、国民
は東電を信用していません。その東電を娑婆に置いているのは
枝野であり野田であり政府です。

いいですか。いまだに「東京電力」の「株」は上場されており
自由に売買されています。再建計画の認可を受けた直後は、株価
が跳ね上がっていました。

いいですか。「株主」とは出資に応じた責任を取るものです。
わたしがライブドアに投資して、紙くずしか残らなかったのも
投資者の責任です。

いいですか。東電の株主は株主責任をとっていなのです。

株主は弱者じゃありません。リスクマネーを選択した一種の
ギャンブラーです。馬券が外れて、保証されては賭場が成立し
なくなります。

いいですか。東電を破綻しないというのはそういうことです。

そしてこれが関西電力にも波及します。

今週のWeb担当者Forumの原稿でも触れましたが、関西圏は
いよいよ計画停電が現実味を帯びてきました。これに対して
東電と同じく「説明不足」や「情報を小出しにしている」と
批判が向けられています。

関西電力にとって模範は東電です。すると彼らがこう考える
ことでしょう。

「電力会社は何が起きても潰されない」

すでにモラルハザードは起きているのです。関西電力だけで
はなく、すべての電力会社が同じことを考えているでしょう。
かつて金融危機の時にも同じことが言われました。ちなみに
東電が破綻すると、株主であり貸し主である大手金融機関に
波及するのでつぶせないというのは論外。

「銀行への資本注入」

をみてきた私たちにその説明は通じません。東電の破綻で
金融不安を招くなら、それへの対応策は我が国にはすでに経験
とともに用意できています。

東電の破綻処理とは、一社のことだけではなく、日本の電気
政策の根幹に関わることで、破綻処理できない限り発想電分離
どころか脱原発でさえ不可能でしょう。なぜなら

「潰されない」

のです。嘘を重ねても、情報を隠しても、言を左右にしても
潰されないのなら、最後まで自分たちに有利な条件を引き出そ
うと工作するのは自明です。いや「組織防衛」から考えれば
真っ当な戦略です。圧倒的不利な局面でも逃げ回れば、誰かが
助けてくれ、失敗しても見逃されるのですから。

それではどうして東電を破綻処理しないのかと言えば民主党
の支持母体が労組であり、東電を破綻させるということは、
引いては他の電力会社にまで波及する「前例」をつくることで
あり、それは即ち、日本全国津々浦々に存在する

「官僚の天下り先」

の消滅を意味するからです。

先の「モーニングバード」で羽鳥慎一さんは、もともとの
東電の料金設計に疑問を投げていました。総括原価方式により
過大な資産がを積みますことで利益を嵩上げでき、その結果
料金が高止まっていたのではないかということです。

なるほど。ならば問います。

「テレビ局が支払っている電波利用料は適切ですか」

民間放送は「無料」という建前ですが、スポンサーを経由
して料金を徴収しており、なにより在京キー局の社員の
年収が高いのは知れたことです。

放送免許という既得権を安く利用しながら、莫大な事業収
入を上げ、子会社をやたらつくり、本社からあぶれた社員を
引き取らせ、不祥事がおきても見かけの反省でお茶を濁し、
充分な待遇と福利厚生を与えているのは、どこかの東京電力
と同じです。

だから先の質問にわたしはこういうのです。

「よくいうよ」

東電という「破綻企業」の大株主はすでに「政府」です。
批判すべきを批判せずに、国民の目を欺く所業を「プロパガンダ」
と呼びます。

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