パソコン販売大手「PCデポ」が袋だたき状態となっています。
きっかけは、とあるユーザーのクレームで、テレビ各局、新聞各紙が飛びつきます。
3年満了のサポート契約をしていたユーザーが解約を申し出たところ、解約料として20万数千円を請求されたというもの。
パソコンや周辺グッズの廉価販売で世に出たPCデポですが、需要が一巡してからは月額制の「サポート」を収益の柱に育て、直近の『会社四季報』によれば、過去最高純益を目指す! と、ありますが、株価は四季報の掲載価格1507円の半分以下の700円をさらに割り込んだほどです。
契約した本人は80才を過ぎた認知症を患う老人。老人の入院をきっかけにご子息が部屋を整理していたら、このサポート契約を見つけ、解除を申し込んだら20万円強。そりゃないぜとねじ込んだら、わかりましたと10万円に減額され支払ったものの、腹の虫が治まらずにTwitterに投稿し拡散され、ネットニュースに並びます。
慌てたPCデポは公式サイトで反省コメントを発し、対応の変更を決定し、火消しのために社長自らがこの息子に面談を申し出るも、息子の方がネットライター「ヨッピー」氏の同席を求めると一転して態度を硬化。面談はなかったことに。
後日、息子は親を老人ホームから連れ出し、ライターと共に店を訊ね、一連の契約内容を確認。そしてこれをライターがすべて公開。
そしてオリンピックが終わり、SMAP騒動も落ち着き、小池百合子都知事閣下VSドン内田(都議会自民)も新展開がなく、興行収入を伸ばし大ヒットながらも、興味のない人にはまったく響かない映画『シン・ゴジラ』では、紙面も放送枠も埋まらないので、ネタとして再評価されたのが「PCデポ高額解約料騒動」。
消費者+老人+不透明な契約という切り口は、社会問題の切り口としてキャッチーです。いつものことですが、マスコミは弱者と分類されている側の味方に立ちたがります。産経新聞は社説を使って難じます。
しかし、息子の要請により、各種交渉の情報に接しているライター「ヨッピー」氏の記事(ブログ)を元に判断するなら、PCデポの対応のまずさは嘲笑ものですが、この息子さんの対応も褒められたものではありません。
■PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景(ヨッピー氏)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yoppy/20160823-00061403/
■息子こと「ケンヂ」氏の当該ブログ
当初、20万円の解約料を請求されたのは事実です。これが20万円の根拠のようです。フォロワーさんから教えていただきましたが、解約料に消費税はないみたいです。
何から何まで悪質です。#PCデポ pic.twitter.com/fbckpekraQ— ケンヂ (@kenzysince1972) August 15, 2016
たしかに20万円の解約料とだけ見れば、悪徳商法を彷彿とさせます。しかし、それは「中途解約」によります。
PCデポだけを責める行為は、日教組が洗脳したような「大企業=悪」という単細胞的な理屈に過ぎず、庶民や視聴者にひとときの快楽を提供しますが、社会になんら教訓を残さないどころか、不毛な企業叩きの悪例をひとつ増やすだけです。
期限が設定されている各種プランの途中解約に、ペナルティが発生するのは常識で、最たるものが「携帯電話」。
新規契約、MNP、長期契約、家族割りなどなど、多くは2年などの年単位の契約で、中途解約には解約料を徴収されます。これは長期契約をもとに割安料金を提供したのであって、約束不履行の場合は正規料金に計算し直した差額や、それに準じる代金を徴収するという理屈によります。
ただし、事実上、みな割引き状態で、すると「定価」はそもそも「みせかけ」の可能性が高く、もともと存在しない価格を表示し、そこからの値引きで安くなった、消費者にメリットがあると誤認させる「二重価格」に該当し、公正取引委員会の取り締まり案件となるのですが、わずかな事例でも定価販売があれば、それを逃げ口上として見逃されているグレーゾーンの手口です。
悪質性という視点でみれば、公共の電波という公共財を、独占的に利用して商売をしている、携帯会社(回線会社)の方が上に思えて仕方がありません。
ある有線放送は2年間の固定契約であり自動更新で、自動更新しても通達などしません。そして解約時は、残月数分の全額支払いを求めると約款にあります。
だから、PCデポを見逃せという話しではなく、一般的によくある商取引の形態だということであり、仮にPCデポの中途解約を批判するのであれば、携帯会社を含めて批判すべきでしょう。
そもそも解約料が高額になった理由は、老ユーザーが複数のサポートプランに加入していたことによります。
パソコンやタブレット端末、回線契約など、それぞれ初期設定を施し、電話サポートなど手厚いのですが、これらにかかる「技術料」は、契約満了時に精算する形式となっており、中途解約の場合はその精算が必要。で複数の累積に加え、購入していた3年分の電子書籍が、未発行分まで一括納付する契約になっていたことで20万円を超えました。
この「技術料」が曲者です。とかく、技術畑に遠い人は、そこに料金が発生することへの想像力が希薄です。
私など、ホームページを作っていて、よく言われるのが
「ちょこちょこっとやるだけでしょ? タダでやってよ」
もちろん、友人や親戚、すでに取引があるのならばともかく、地元の会合で知り合っただけ、家が近所だという理由だけで依頼する人は決して少数ではありません。パソコンのセッティング、無線LANの設定なども同じ。
「相場観」もそれぞれ異なり、もっともそれが現れるのが「ロゴ」などのデザインですが、ちょっとしたものでも十数万円はくだらない大手企業の仕事をしているデザイナーが、知り合い価格だからと数万円の請求を切ると「ぼったくり」と罵られることも珍しいことではありません。
PCデポの料金設定には、解約させない意図も見え隠れし、多分、それが強いのだろうとは推測しますが、「技術料」を一概に高いと断じることに同意できません。
イヤなら自分でやれば良いのです。詳しくなければ人に訊ね、今回、ご子息がヨッピー氏に相談したように、ネット上の詳しい誰かに相談すれば良く、ただしネットは親切な人はそれほどおらず、特に初心者に
「ググれカス」
と悪罵を投げるユーザーも少なくはありません。
対してお金を払って受ける「サポート」は優しく親身です。それが代金に含まれているから当然です。ネットで検索する必要がなければ、匿名のネットユーザーに「カス」呼ばわりされることもありません。
御尊父である老ユーザーは、つまりはこちらに対価を支払ったと見るのが妥当でしょう。
騒動には前段があり、1年ほど前に別の契約を、やはり息子が解約したことがあり、その際に、父親に軽い認知症の疑いがあり、一切取引まかりならんとPCデポの店頭で抗議していたとか。そしてその時は「解約料」を取られなかったとのこと。
ヨッピー氏は、店舗側の当時の記録には、こうした記載が無かったことを「では何故無償解除に応じたのか」という疑問が残ると問題の拡大を図りますが、私に手持ちの証拠は一切ありませんが、現場レベルの感覚としては「クレーマー」に分類したのではないでしょうか。
あるいは「親子げんか」。風貌、態度、話し方にもよりますが、実の親を小馬鹿にし過小評価をもとに語る息子が私の親族にいて、第三者の目にはその息子の方が頼りなく見えるものです。また、記事には、痴呆症だとする医師の診断書を提示した形跡すらありません。
本当に父親の消費を止めたかったのなら、認知症を得た親族の代理人になることができる「成年後見制度」を利用すべきでした。ざっくりといえば、この制度を利用して息子が後見人となれば、息子は本人と同等の権利を得ることができ、その上で、店が勝手に親と契約したのなら、その契約そのものを無効にすることもできたのですが、これもせず、ただの口頭だけで、店舗が履行してくれると期待するのは消費者の傲慢です。
各家庭の事情もあるので、一概には言えませんが、痴呆を抱えた御尊父を、それまでいったいどうしていたのかという疑問も消えません。
老ユーザーは複数のサポートプランにサインし、なかにはパソコン端末10台分をフォローする契約も含まれており、老人の個人ユーザーには過分だろうとヨッピー氏もご子息も憤ります。
この憤りはある面からは差別というか見当違い。それは老人への偏見を含むからです。まして年を取れば、各部屋にノートパソコンを運ぶことが面倒になる可能性は高く(未経験なので推測)、各端末のデータをクラウド上で同期させ、どこからでも同じ状態で使えるようにしている老人だっていないとは限りません。
一方でPCデポの顧客管理の杜撰さを物語るのもこの契約。10数台もパソコンを利用しているのなら、新しい端末を買い換える可能性を持つ有力な見込み客。
10台ものサポートを求めるお客との契約時に、手持ちのパソコンのあれこれを訊ねていない「営業機会の損失」です。顧客数、契約数という「頭数」を追うのは強引な営業手法を容認する企業にありがちなことで、騙すとは言わないまでも、とれるところから取ろうとする企業体質が見えなくもありません。
いずれにせよPCデポの問題はアリアリとはいえ、ユーザー側の問題も少なくないのです。
繰り返しになりますが、認知症と自ら信じる老人の放置。諸事情があるとはいえ、騒動は予想できたことです。それが無理だとしても、月に1回はPCデポに電話をかけ、
「ウチの親父はそちらで何か契約していないでしょうか」
と確認していれば、契約を未然に防げたかも知れません。繰り返し確認することで、店に「本気」が伝わりますし、契約直後ならもっと早い対応もできたことでしょう。
一度、口頭で告げたからと、すべてのパート、アルバイトスタッフに周知徹底させろというのは現実的な話しではありません。これは繰り返しになりますが、客の傲慢です。ましてや量販店。店が相手にしているのは、あなたひとりじゃないのです。
いわゆる「クーリングオフ」は、店頭での契約には適応されず、これに産経新聞は社説で警鐘を鳴らしますが、新聞記者がいかに社会を知らないかがあきらかになる書き方です。
反社会的な団体でもない限り、不適切な取引を確認した店頭は、契約や法律を棚上げして対応するものだからです。事実、騒動の1年前の時は、無料での解約に応じています。
法律を持ち出すなら、PCデポには解約料を減額する理由はなくなります。ここに産経新聞の社説は触れていません。こうした片手落ちの啓発を、安物のヒューマニズムとでも評すのでしょうか。
さらに、息子が納得しないのに解約料を払ってしまったことも問題といえます。この手の交渉は「納得したら払う」が正解。払ってしまえば、相手はのらりくらりと逃げることも可能。
もちろん、契約がある以上、最終的には支払う局面は避けられなくても、払わなければ、トラブル事案として上層部にまで挙げられますし、こちらに道理があるのなら、契約を上書きすることも不可能ではありません。
一般的に契約は、互いの正義に基づいて結ばれるもの、という建前があるからです。
実際、先に触れた有線放送の契約の場合、
1:解約時、残月数の一喝支払いで最大2年分とは如何なものか
2:ならば更新時に、その旨を通知すべきではないか
3:さらに、この数年、営業マンの顔すら見たことがない
との3点で交渉したところ、「特例」という形で、翌月、あるいは翌々月までの支払いで解約できるようになりました。企業の側に立てば理解できることですが、杓子定規な法律解釈や、せいぜい数十万円単位で継続案件とするより、落としどころを見つけて解決する方が建設的だからです。
ただし、「SEO詐欺(風)」のように、弁護士も抱き込んだ確信犯の場合、書面を裁判所に提出するだけで判決が下る「少額請求訴訟」を悪用して、「法的解決」を武器とする連中もいるので注意が必要です。
少なくともPCデポは東証一部上場企業。悪質な取引を強要するようなら、最悪は上場廃止もあり得て、その時、会社が被る損害は千億単位で、わずか20万円の非ではありません。むしろ、上場企業は「叩きやすい」という面もあります。
消費者側の最大の問題が「処罰感情」。
ネットで騒動が拡散され、PCデポ側はすでに支配済みの「解約料」すらも返金を申し出たのですが、息子は「金の問題じゃない」とこれを拒否。
契約内容を確認するため出向いた店舗で、本人確認の身分証提示を求められたことで感情を悪化させたとヨッピー氏が推察しますが、PCデポ側からすれば当たり前のこと。
常連だった老ユーザーはともかく、その息子など知りはしません。接点はあっても、一度や二度で顔を覚えろとは傲慢ですし、むしろ本人確認せずに、契約書類を提示すれば、別のコンプライアンスに触れてしまいます。
息子もヨッピー氏も、ネットで話題になっていたことが、自分を有名人だと錯覚させたのでしょうか。店頭で汗を流す店員は、ネットにそうそう張り付いてなどいられません。
なにより、そもそもが解約料という「金の問題」だったはず。
ならば、その金で解決するしかなく、契約を曲げて対応してくれたのはPCデポの懺悔と反省、少々の口止め料も含んでのこと。
社会正義の実現という点からも、Twitterに拡散し、ネットニュースになり、PCデポ自身が対応の誤りを認め、高齢者の契約解除を迅速に行うと方針転換した時点で達成しています。
もし仮に、私が息子から相談を受けていたなら、解約料の返還で矛を収めさせたことでしょう。ここから先は「不毛地帯」だからです。どこをどうひっくり返しても「損害賠償」がとれる案件ではありません。契約不履行をしたのはユーザー側だからです。
実際、ネットの反応をみても、PCデポの営業姿勢を疑う声と共に、サポートという商品の性質から当然という意見もあります。
さらに昨日(2016年8月30日)、この息子がTBSのワイドショーに出演すると、その態度から「クレーマー」というネット民の声も目立つようになりました。
実父のことゆえ、怒りの心情は理解できますが、契約に限らず商取引の責任は互いが応分に背負うものです。
交渉や確認作業で損した時間はお互い様。認知症かどうかは家庭の事情。高齢者への対応を改めると発表したPCデポに、これ以上できることはありません。
マスコミは消費者の味方のフリをやめ、親の消費者利益実現のために、なにを啓発すべきかを自省すべきでしょう。そして消費者はもっと利口になるべきですが、知らぬことの相談相手はより慎重に選ばなければなりません。
実は私のところにも、この手の相談が寄せられますが、ここで述べたような社会の仕組みを説明し「銭金」で解決するように提案しています。
法外な賠償を請求しろということではなく、妥当な落としどころのことで、そして何より、本気で闘うなら「弁護士」に相談しなさいと。
係争中の案件を記事にすれば、相手の態度が硬化するのは火を見るより明らかで、だからこの手の相談について、私がネタにすることはまずありません。解決した数年後はともかく。