デッサンの狂ったアイドル論。テクノロジーは人を幸せにしない

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 もともと「アイドル」とは偶像から転じ、国内では海外スターなどをこう呼んでいました。映画「アイドルを探せ」があるように。

 日本では映画俳優・女優をスター(スタア)と呼ぶのに対して、異論を怖れずに時代を追えば、テレビの隆盛と共にそこで活躍した、俳優でも歌手でもなく、どちらにも絡みつつ、どれも一流とは呼べない、売り出し中のタレントの惹句として「アイドル」という文言が再発見された、と見ています。

 タレントも本来は「才能」で、その使われ方は和製英語の一種で「芸能人・有名人」といったところでしょう。

 つまり、「アイドル」とは、その始まりから、なにものでもないもの、を指したと定義できます。そのため、後にアイドル全盛・黄金期と呼ばれることになる、昭和50年代当時、「アイドル」には軽い侮蔑が含まれ、

「アイドル歌手にしては歌が上手い」
「所詮アイドル俳優だから」

 といった使われ方がされていました。

 かつての「アイドル」は、可愛らしい、格好良いというルックスにおいては、一般人と一線を画していました。「となりの美代ちゃん」と呼ばれた浅田美代子の親しみやすさは、近寄りがたい「スター」と対比されながらも、しかし、隣家の娘とは月とスッポンで、一億人の妹のはずの大場久美子は一人しかいませんでした。

 しかし、これも「格落ちの可愛さ」の枠内の話しで、当時の表現を借りるなら「絶世の美女」は「アイドル」とは呼ばれず、モデルや役者とカテゴライズし売り出されたのです。

 だから松田聖子も中森明菜も、圧倒的なルックスだからと売り出されたのではありません。むしろ、どちらもさほど期待されず、デビュー後は文字通り「スター誕生」となったのですが、それでも「アイドル」への揶揄はしばらく続いたものです。

 二人は結果を持って、批判をねじ伏せ、松田聖子など批判を向かい風として正面から受け止め、凧のようにより高く飛び立っていきましたが、「アイドル」とは、そこそこ可愛い女の子、それなりに格好良い男子にとって、芸能界の入口でありきっかけに過ぎなかったのです。

 時は下り、アイドルはひとつの「職種」となりました。9月解散説が根強い「SMAP」のように、40才を過ぎたオッさんらが自称するのはギャグとしても、ルックスの凋落は見る影もない、とファンは怒るでしょうが事実です。

 え? これでアイドルを名乗れる? と呆れるコトしきり。

 もはや、唯一の条件だった「ルックス」すらアイドルを意味しなくなりました。

 一方でこんな意見を耳にすることもあります。

「最近は可愛い子が増えた」

 子をイケメンに変えても同じですが、これは錯覚。

「可愛いの記号が増えた」

 だけに過ぎません。

 美の基準は時代により変化しますが、目が大きい「どんぐり眼」が不美人だった時代もあり、丸顔の垂れ目は「タヌキ」とからかわれたこともあります。

 頬が赤いのは「りんご(ほっぺ)」と呼ばれ、可愛いの評価は童女に対するモノで、昨今のチーク(ほほ)を赤く塗りたくる化粧は、昭和時代なら失笑が漏れ、「おてもやん」と小馬鹿ではなく大馬鹿にされたものです。

 これも「記号」のひとつです。頬を不自然に赤くぬるメイクは

「ほら、私可愛いでしょ」

 とアピールする記号のひとつとなりました。そこに痛々しさを感じたとしても、個性を尊重する教育を受けた現代の若者は、指摘することなく

「好意的に解釈」

 することで「可愛い」と読解します。嗜好としての可愛いではなく、思考の結果の可愛いです。空気を読むといっても良いでしょう。多くの大衆は絶対的な美的感覚を持たず、また揺るがぬ美的基準を持ちません。

 ちなみに私は、「真田丸」でも「警視庁・捜査一課長」、さらにauの電気のCMでも、斉藤由貴がでてきた瞬間に、自動的に焦点が合うように遺伝子改造されており、その美醜に異論があろうとすべてを排除するためのプログラミングがなされています。相対評価ではなく、絶対評価における彼女は永遠のアイドルです。

 コホン。話を戻します。

 触覚も同じく。前髪と側頭部の境界にある髪の毛の、左右をそれぞれ伸ばしてアゴ先まで垂らし、昆虫の触角というか、セイウチの牙というかの状態を「触覚」と呼び、これも

「だから、これ可愛いでしょ」

 という記号で、さらに張ったエラ、あるいは押し出された皮下脂肪を隠すために触覚が利用されても、

「見えている部分で評価しなさい」

 と事実上の脅迫を迫っており、これまた好意的な解釈をスタンダードとするように洗脳された世代らは、可愛いという記号を読み解きます。ツインテールもその記号のひとつです。

 どんぐり眼が不美人だった時代は過ぎ去り、プリクラをとれば、みなドングリを越えた、2Lサイズの鶏の卵レベルの眼球に画像修正がかけられ、ときおり犯罪被害者の雁首(写真)として紹介される度に人生の虚しさを見つけずにはいられないのですが、アイメイクなどもほや特殊メイクです。

 カラーコンタクトとは、目の色を変えるだけではなく黒目を大きくするためのものもあり、目の上に目を書き加える技術はすでに共有され、睫毛に至っては、かつての和田アキ子や研ナオコを彷彿とさせつつも、もはや笑う若者はいません。

 盛った睫毛は可愛いの記号だからです。私はオジサン、遠慮無く笑いますが。

 男子も同じく。茶髪は一時より影響力が弱くなりましたが、小顔のくしゃくしゃヘア、ツンツン頭、要するに「ホスト頭」で、これはどちらが先かは分かりませんが、人気商売であるホストにとって、女子ウケする髪型はマストで、その髪型をしてさえすれば

「イケメン」

 と評価されるのは、評価する側もその記号を好意的に解釈しているからです。韓流タレントが席巻して以降、さらに各種の記号が加算され、もはや「イケメンですね」とは「若いですね」ぐらいの意味になり下がっています。

 そして「衣装」という記号が加われば「アイドル」の完成。ふりふりはもちろん、集団で制服風の記号化された衣装を着れば、アイドルです。それは同調圧力といってよいでしょう。

 さらに、発展系として、AKB48一味が持ち込んだアイドルの記号が「水着」。

 ほぼ、エロ本状態のグラビアが、アイドルと女優やタレントとの境界線のひとつとなりました。かつては「グラビアアイドル」という専門職がありましたが、巨乳ブームが去った後のグラビア界を、AKBグループがさらっていきます。

 白い水着が多用されるのは「下着」のオマージュ(というよりそのまま)。そこに制服を着せても、パンチラではないと強弁でき、少年漫画誌でも掲載OK。商売のためなら青少年の健全な発達など糞食らえです。

 また、一人では迫力に欠ける残念ボディでも、複数の少女を半裸にして並べる「質より量」でお得感を演出に成功したのがAKBグループ。

 そして白水着がアイドルの「記号」となります。

 もちろん「記号」だけでアイドルは成り立ちません。そして、十人並みより可愛い子もいる、ことは否定しませんが、いまルックスがかつてのアイドルレベル女の子は、モデルや女優として売り出しており、それほどでもない女の子がアイドルを名乗っている事実は厳然と存在します。

 その背景にはテクノロジーの進化があります。

 行きつけのラーメン屋で開いた「週刊ヤングジャンプ」。この漫画雑誌は、アイドルのグラビアが多いのですが、昭和基準ならエログラビアは、先のAKB等の記号によるところが大きいといえます。

 そして表紙を飾る子はともかく、それ以外の少女のルックスは微妙。1枚目と2枚目の写真の顔が全然違う少女は珍しくありません。豊かな表情がそう感じさせるのではなく、心がトキメク片付けとかいうオカルトを拡散していた女性と同じく、正面と横顔で全く顔が違うのです。愛嬌は感じても、美的な評価は低いことでしょう。

 ここに「アイドル増加」の理由があります。現代アイドルシーンの影の主役は、写メ。すなわちデジカメということです。取り直しがなんどでもでき、連射も思いのままなので、

「奇跡のワンショット」

 を量産できるようになったのです。

 かつて写真は銀塩で、現像するまで仕上がりは分からず、「素材」により仕上がりは大きく左右されました。ところが、デジカメの登場により、フィルムという物理限界がなくなります。その場で仕上がりを確認でき、取り直しは容易で、無駄なデータは削除すれば永遠にだって撮影できます。

 角度やメイク、ライティング、さらには制服などの「記号」を織りこむことで、「アイドル」という商品が、容易に製造できるようになったのです。さらに特殊メイクのような、くっきりとした色の境界をデジカメは得意とし、両者に正の相関関係が生まれます。

 一見するとWin=Win。アイドルになりたい女性と、アイドルで商売したい大人らのコラボレーション。

 写メやデジカメの発達が、奇跡のワンショットを生み出し、自己のルックスを客観視するチャンスを奪い、勘違いしたまま女性としての旬を逃すとしたら、テクノロジーの進化と、他人を過剰に尊重する社会の残酷さを見つけずにはいられません。

 ま、余計なお世話ですが。

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