増税による景気悪化を算数で理解できるのはGDPではなく春闘

 昨夜(2014年11月18日)、安倍首相が解散を発表しました。最大の理由は、来秋の10%を「延期」することです。これをもって「アベノミクスの失敗」と野党はもちろん、マスコミの批判が始まっています。

 アベノミクスへ思うところはあり、批判する場所は沢山ありますが、しかし、増税延期はアベノミクスの失敗ではありません。景気の明らかな失速は「消費増税」にあり、その増税は「三党合意」でアベノミクスに非ずです。

 政権運営において、増税を実施した責は問われるべきですが、アベノミクスに結びつけるのは、排泄物と発酵食品の違いを理解しない暴論です。

 批判している人は2種類に分かれ、日頃から論理の混同が目立つ、いわゆる「バカ」は、この違いが分からず、盲目的に「失敗」を叫びますが、「無理筋」と気がついているものらは、解散総選挙に「大義」がないと、その「是非」を問います。

 その論を大別すると以下の3つでしょうか。

1:数百億の選挙費用が無駄だ
2:年末の慌ただしいときに。
3:「大義」がない

 選挙費用については、毎度の事ながら「無駄」だなぁとは思います。一説には800億円とあり、産経新聞が報じたところでも650億円とも。

 改善は必要でしょう。それこそ「ネット選挙」が解禁されたのです。すべての広報をネットにしろと暴論は言いません。しかし、新聞購読率、雑誌実売数の低下に合わせ、応分の紙媒体への広報費用を削るなど取り組めることは沢山あります。

 なによりもそこを掘り返すなら「政党助成金」から洗い直すべきでしょうし、その是非を問わなければ意味はありません。

 しかし、「3」にも重なりますが、ことは「消費増税」に関するもので、財務省発表を信じる愚を犯すなら、1%は2.7兆円に該当し、その財務省の公開資料を素直に読めば、1%は2.5兆円で、差額は二千億円と膨大な額なれど、選挙費用にはとどきません。

 増税により増える国民負担を2.5兆円×2(%)ならば5兆円。それは事実上、永遠に続き、更なる増税の踏み台というのが、専らの見立てで、これを萩原博子的「家計簿」的に桁を揃えて例えるなら、こうなります。

 年間5000万円の家賃の増額の正当性を確認するために、80万円のリサーチ費用を投じたとして、それを「高い」と思うかどうかは価値観の話し。消費税と家賃は違うことももちろんですが。

 つづいて「2」の年末選挙への疑問は、それこそ「暇」ならば良いのかと言えば、業種業態により暇な時期は事なります。選挙に良い季節などありません。

 冬の選挙は日が落ちるのが早く、街宣カーに照明設備が必要という話しもありますが、日の長い夏場ならば、暗くなるまで候補者の名前が連呼されて迷惑です。

 私事ながら事務所は東京12区と13区の境界に有るだけでなく、川向こうは埼玉2区の川口市と、埼玉3区の草加市に接しており、候補者はめったに訪れませんが、運悪く街宣カーが重なったときなど、うるさくて仕方がありません。

 年末を嫌いますが、12月14日投開票で自民党が圧勝でもすれば、12月の後半戦は「増税延期」の雰囲気で好景気への期待から年末商戦は盛り上がること必死。増税延期はもはや野党も掲げているので、自民党の勝利はあまり関係ないかもしれませんが、いずれにせよ「来年も増税」よりは、明るい空気になるに違いありません。

 それでは「3」の「大義」についてですが、安倍首相も解散を表明した記者会見で語っていたように、増税延期は立派な「大義」です。

 2014年11月17日発表のGDP値が「マイナス」となり、増税延期に疑義を唱える人間は、

「消費税再増税を判断するための有識者点検会合」

 に出席する有識者ぐらいでしょうが、その中でもRBS証券東京支店のチーフエコノミスト西岡純子氏(=じゅんこ、“すみこ”ではない)のように、

「今こそ消費増税を果敢な姿勢で進めるべきだ」

 と、この期に及んでも主張を曲げない姿勢は嫌いではありません。仮に彼女が、安全が確保された場所から、戦争継続を勇ましく叫んでいるに過ぎなくても、恥を知らずに手のひらを返すものよりは幾分マシといえます。

 ところがテレビコメンテーターを筆頭に、エコノミストを自称する連中の大半は、わずか2週間前、いや1週間前でさえ

「粛々と増税すべきだ」

 といっていました。

 私の知る限り、増税に反対、それもこの春の5%から8%への引き上げから反対していたのは、カブドットコム証券のマーケットアナリスト「山田勉」氏だけです。

 主張は正論でした。増税は景気を冷やすことは「常識」というより「必然」だからです。

 無学の素人が学説を持ち出す厚顔をお許しいただけるなら、マクロ経済学では「租税乗数」と呼ぶもので、ざっくりといえばこんな感じ。

 千円で買えたものが3%の増税後は、970円分しか買えなくなります。同じことが仕入れ段階でもおこり、商品の原価が5割なら485円で、税を抜けば471円。

 消費者は千円を使い、業者は原価に500円使えていた取引が、増税後はそれぞれ970円、471円となり、合計59円の「買い控え」が自然発生し、実際にはすべての「仕入れ」の段階で起こるので「乗数」となるのです。

 特に消費者の懐を直撃する、消費増税ではこの影響は避けようがありません。増税は景気を冷やす、の論理的説明は算数レベルで可能です。

 それでは永遠に増税できない。

 こんな陳腐な暴言を吐く「エコノミスト」も多すぎて、名前を列挙できないのがこの国の「失われた20年」の下敷きになっているのではないかと訝るほど「バカ」ばかりです。

 日本には成功例があります。「バブル」です。

 消費税が導入された平成元年、日本は未曾有の好景気で、増税のショックを払拭するほどの景気拡大を実現したのです。

 バブルの是非はここでは述べません。好景気など景気拡大局面、もっと端的に言えば「インフレ」のときは、増税の痛みを小さく抑え込むことができる。これも常識です。

 話しを分かりやすくするため、中学校の教科書レベルの「インフレ局面」とすれば、物価が上がる状態です。それは相対的なお金の価値の低下を意味します。

 物価だけが上がり、給料が上がらなければ、社員は生活できません。社員が生活できなければ、会社は立ちゆかなくなります。

 日教組の活動家(多くは教員という職に就く、しかも公務員)は、経営者を資本家と定義し、「搾取」と批判しますが、歴史的に奴隷制を持たない我が国では、搾取にも限界があり、憲法で「職業選択の自由」が認められており、「搾取」ばかりする企業から、社員が逃げ出すのは「すき家」や「ワタミ」が証明したことです。

 そこで物価の上昇に遅れて、給与は上がり始めます。その結果、「増税分」の負担も体感値として軽くなるのです。

 バブル時の「実例」です。

 平成元年、私がプログラマーとして入社したときの月給の「支給額」は13万円でした。所得税などの控除をおおよそ2割とすれば、可処分所得は10万4千円ほど。

 当時の税率は3%で、消費税税抜き可処分所得は100970円となります。

 翌年の支給月額は14万5千円。人手不足により、春が来るたびに給料が上がった時代です。同じく可処分所得が116000円となり、税抜きで112621円。

 前年との差額は11651円。消費税負担は3378円。

 仮にこのタイミングで3%の消費税が導入されたとしても、差し引き8272円のプラスになるということです。

 消費税導入前年の先輩に「高卒」がおらず、正確な比較はできませんが、高卒新人の支給予定額が12万円だったと聞いており、そこで計算すると可処分所得96000円。

 仮に1年後に、そのときの新人(私の世代)と同じ月給だったとしても、月額税負担3029円に対して、可処分所得の増加額は4970円で、差し引き1941円のプラスとなります。

 実際には当時のインフレ率(2.3%)も加わえなければ正確性に欠けますが、インフレになり、給与が増えるようになれば「増税分」を吸収することができるということです。それは「税金」の「負担感」を軽くし、消費者の財布の紐を緩めます。

 一方、「デフレ」とは、物の値段が下がり、お金の価値が相対的に高まる状態です。そこでの「税の増加」は、「負担感」を重くし、財布の紐を固結びにします。

 それではこの4月。消費税を5%から8%に上げたとき、日本はどちらの経済状態だったかといえば、「インフレ」の兆しは見え始めていましたが、安定軌道には遙か遠い状態でした。

 これまた端的に言えば、「給料が増えていない」状態だったからです。

 安倍首相から経団連への異例の呼びかけにより、一時所得が増加し、ベースアップする大企業も増え始めたのは今年の春のことです。連合が発表した、第1回回答集計では賃上げ率は2.16%。

 平均賃金方式での賃金引き上げ額は6,491円と発表され、ここから逆算すると月給300,509円となります。で、賃上げ前は294,018円。両者を比較します。

 2割をさっ引いた可処分所得と、括弧内は税抜き可処分所得と、すべてを使い切ったときの税負担です。

賃上げ前:235,214円(224,013円/11,200円/5%)
賃上げ後:240,407円(222,599円/17,807円/8%)

 可処分所得は5193円増えていますが、税負担は6607円増加し、差し引き1414円の「減収」となっているのです。これに「租税乗数」が加わります。

 大規模な統計や、複雑な計算式を用いなくても、「景気悪化」は想定の範囲内だったのです。

 一方、仮に賃上げがあり、増税がなければ、税抜き可処分所得は228,959円となり、手取り4946円の「増収」となり、全額を基本給とし、ボーナスを年間4ヶ月分、年間16ヶ月支給の単純計算すると79,136円となります。

 タンス預金が好きな日本人とはいえ、目の前に現金があれば、財布の紐が緩むことは、数度のバブルが証明していることです。

 つまり、消費増税は、最低でも1年は延期すべきだったことを逆説的に証明したのが、この月曜日に発表された「マイナスGDP」ということです。

 そして手のひらを返したように「増税やむなし」というエコノミストもコメンテーターも反省が足りません。遡り、

「消費税を5%に戻せ」

 ぐらいで当然なのです。ちなみにこの主張は、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンのもの。

 ここまでは「増税の愚」の話し。

 いよいよ「大義」です。

 靖国参拝、集団的自衛権、特定秘密保護法その他諸々。安倍政権のやることなすこと、「批判」をしてきたのは誰であろう、産経新聞と読売新聞を除くマスコミと、テレビコメンテーター達です。

 幻冬舎「GOETHE(ゲーテ)」編集長 舘野晴彦氏に至っては、政権再交替選挙となった2012年の衆院選挙について

「自民党も脱原発だった(モーニングバードでの発言要旨)」

 と、歴史の改竄に余念がないというか誤報です。2012年、政権を奪還したときの選挙公約は、

「原子力発電については3年以内に結論をだす(要旨)」

 です。

 一事万事、過去を改竄し、発言をすり替え、批判を飾り続けた論拠とは「横暴」や「傲慢」。数を頼りにやりたい放題。時には「民意を無視」とまで言っていました。

 だからこそ、です。「解散総選挙」で「増税延期」はもちろん、この2年間の「安倍政権」の審判を民意に問うことは、安倍政権、自民党批判を続けた連中にとって、「大義」以外のなにものでもありません。

 ところが、アンチ自民党ほど「大義」を持ち出します。

 とにかくズルイのが、9月あたりから安倍内閣周辺より、

「増税延期」

 の噂が幾度と流れてきました。そのときは、「法律にある通り増税」といってきた連中が、こぞぞっていま「大義」を問うのです。

 私はアベノミクスには懐疑的です。しかし、アベノミクスを一貫した政策の過程とみるなら、「消費増税」は明らかなる失敗で、軌道修正が求められますが、先の山田勉氏は東京MXの「東京マーケットワイド」にて

“左系のメディアは「アベノミクスは失敗した」と攻勢に出る”

 この指摘に集約されます。「大義」を持ち出しての批判とは、経済対策ではなくイデオロギーや政治闘争なのです。

 その結論は「いま選挙をやられても勝てない(自民党を倒せない)」ということ。

 この2年間、何もできなかった、何もやらなかった、内紛を繰り返した「野党」に「大義」がないだけの話しです。「みんなの党」など解党へと向かう有様で、「モトサヤ」に戻ろうとするベクトルは微笑ましくもありますが、愚かしくもあります。

 この2年間の野党の功績を唯一挙げるなら、橋下徹というものの人間性を白日の下に晒したことで、それでも大阪府民が彼を選ぶのなら、それも民意ですが、政治は生活に直結していることを、苦い薬か痛い結論かで学ぶことになることでしょう。

 そして予想通り、安倍首相の公言どおりに、自民党、公明党で過半数を得たとすれば、それは「信任」を意味することは、民主主義の手続き上、当たり前のことですが、先の舘野晴彦、岩上安見、青木理など・・・あ、どちらも反日番組テレビ朝日「モーニングバード」のコメンテーターで、番組内での発言でした・・・が、仮に自公が選挙に勝っても

「白紙委任したわけではない」

 と主張しますが、それは「わがまま」というものです。

 この2年間の政権運営、そこには靖国も特定秘密保護法も、集団的自衛権も原発再稼働も、普天間移設も含まれるなかでの国民の決断で、白紙ではないまでも「委任」はしたということになり、やはりそこにも「大義」があります。

 大義がないのは、批判勢力の「批判」こそです。

 ただし、2年後の再増税に向けて「景気条項」をいれなかったのは愚策で、この経済センスこそ「アベノミクス」への懐疑そのものです。

 なぜか。すでに二度の消費増税で証明していることです。増税をすれば景気が冷え込み、株価は連動します。景気対策をうっても効果が現れるまで時間がかかります。

 つまり「株価は下がる」のです。すると海外のヘッジファンドあたりが、増税前に大量に「売り浴びせ」をかければ、買い戻す、買い支えるものはいません。

 増税後、下がりきったところで買い戻せば、めでたく利益確定です。極端なようですが、経済政策を「固定」することで、投機家はリスクなく利益を取れるようになり、やはりアベノミクスに亡国の影がちらつきます。

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