世界中を熱狂と爆笑と、騒動の確変状態に陥れているスマホアプリが「Pokémon GO(ポケモンGO)」。あの「ポケモン」の世界をリアルで体験できるゲームです。
全米を熱狂の渦に巻き込み、オーストラリア、ニュージーランドと、サービスが開始された地区で旋風を巻き起こし、日本では今日にも解禁されるとアメリカの経済誌が報じていました。
騒動の一部を紹介すると、
・任天堂の株価が倍に
・開発会社に出資しているフジテレビ株がストップ高
・水辺のポケモンを探していた少女が溺死体を発見
・ポケモン出現スポットに待ち構えていた強盗団
・ニュースキャスターがプレイに熱中し放送の邪魔をする
・プロレスラーがインタビューをすっぽかす
・ポケモン出現場所が暴走族の集会所
・戦没者墓地やホロコースト追悼施設でポケモン、ゲットだぜ
・ゲームの構造上の必然な「歩きスマホ」が社会問題化
などなど。分単位で「騒動」や「事件」が報告されています。
いま、なぜ「ポケモン」。そう感じる人も多いことでしょう。
本稿では「ポケモンGO」の熱狂から見えてくる、日米の「コンテンツ」との距離感の違いについて解説します。
「ポケモン」とは1996年に携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」のソフトとして発売された『ポケットモンスター 赤・緑』に登場するモンスターの総称です。
ピカ、ピカとしかしゃべらないという設定の、黄色の電気ネズミ「ピカチュウ」は多くの人が見たことがあるでしょう。
プレイヤーはゲーム内の各地に潜むポケモンをゲットします。ゲットしたポケモンは育てることで能力を強化し、強化したポケモン同士で対戦します。いわゆる対戦ゲームと、ライダーカードのような収集癖を満たしてくれます。「ポケモンGO」はこの「リアル版」で、実際に街に繰り出しポケモンを探し、ゲットし、育て、闘わせることができます。
ゲーム版はほぼ2年に一回、新ポケモンの投入というマイナーチェンジで売り上げる商法。「赤、緑」は同じゲームながらも、登場するポケモンの違いから、「両方欲しい」と思わせる狙いで、いまに至るジャケット写真が違うだけのCDシングルを、何枚も買わせるAKB商法に繋がります。
若干、文章に悪意を感じるとしたら、出荷量を調整し、市場をコントロールしていると噂が絶えない任天堂商法に苦しめられた、広告屋時代の記憶です。
過去をさておき、そのポケモンGOが大人気。
ポケモンはいまなお、新作が登場し、この秋には「サン」「ムーン」という最新作がリリースされる現役ゲームソフトです。
そしてなにより、アメリカで火がついたというのがポイント。
日本でのポケモンの評価は子供向けコンテンツ。
中川翔子やロバートの山本博など、ファンを公言するタレントを散見しますが少数派。昔遊んでいた・好きだったという人は多くても、ある年齢になると「卒業」するのがポケモンであり、「子供向け」というカテゴリー。
ところがアメリカは違います。
スーパーマン、スパイダーマン、キャプテン・アメリカ、X-men等々の「マーベルヒーロー」が、いつまで経っても活躍し続けています。「アベンジャーズ」を筆頭にこれらのキャラクターによる映画が商業的に成功しているのは、子供だけでなく、大人も熱狂している証拠です。
ウルトラマン(初代)や仮面ライダー(一号)、ライオン丸や月光仮面が、いまなおリメイクされて上映し、大人が列を成し歓声をあげるようなものです。
日本でも「子供向け」のコンテンツに熱中する大人、あるいは子供の熱狂を引きずったまま成人する人もいますが、決して多数派ではなく、これらの「(スーパー)ヒーロー」は、過ごした子供時代毎に断絶し、共通の記憶にならないということです。
背景に大人の事情があります。
日本でマーブルヒーローに近い存在と言えば、「戦隊ヒーロー」や「仮面ライダー」があります。放送時間や放送局を変えながらも続く「ウルトラマン」もあり、最新作は「ウルトラマン・オーブ」。
歴代ウルトラ・ヒーローの力を使えるという設定は「仮面ライダーディケイド」のようです。「ディケイド」はライダーシリーズの総集編的作品で、すべてのライダーの能力を使えるという設定でした。この「ディケイド」を例外として、ほぼすべての作品の放送期間は1年間。人気が出ても放送延長されることは絶対にありません。
なぜなら「オモチャを売る」ためだからです。
毎年、新作がでれば、おもちゃ屋は仕入れるしかなく、問屋も以下同文です。最初のウルトラマンブームが訪れた際、メーカー系の営業マンをしていたのが私の営業の師匠で、彼の体験からの証言で、いまなお受け継がれている「ウルトラマン商法」です。
先に触れたように「ポケットモンスター」というゲームソフトも、「ウルトラマン商法」を踏襲しています。
「ディケイド」が例外であったのは、仮面ライダーは一時途絶えており、「平成ライダーシリーズ」と呼ばれる、オダギリジョー主演の「仮面ライダークウガ」に復活。
関東では日曜日朝7時30分から戦隊ヒーロー、続く8時から仮面ライダーと連続し、放送開始と終了が、どちらも毎年2月前後と重なっていたのは「新年度」にあわせて、キャラクターグッズを買わせるための目論見でした。
ところが平成ライダーが軌道に乗ったことによる珍現象が発生します。戦隊ヒーローとライダーが、同じ時期にフィナーレを迎えることによる「燃え尽き現象」。あの「あまロス」のような状態に陥った視聴者が、どちらの新シリーズも見なくなってしまったのです。
また、同時期に新しい「おもちゃ」が登場するので、両者で売り上げを食い合ってもいました。
そこで「後発」の仮面ライダーは、新シリーズの開始時期を、秋にずらすために「ディケイド」を半年間で終了させます。当初からの予定通りながら、最終回は、
「続きは映画で!」
とやったものだから大ブーイング。半年間の壮大な予告編に公共財である電波を使ったわけですから。
直近では竹内涼真、福士蒼太など、番組終了後は大人気が約束されるはずのライダー俳優のなかで、ディケイドを演じた井上正大は、いまひとつブレイクしていない理由かも知れませんが、これは余談。
余談ついでに言えば、ライダー俳優は「甥っ子」気分で応援しています。「頑張れディケイド」とライダー名で。竹内涼真は「ドライブ」で、福士蒼太は「種市しぇんぱぁい(ミズタク風)」。
話を戻します。こうした「大人の事情」から、日本では1年区切りでヒーローが入れ替わり、世代を超えた共通体験になりませんが、アメリカは違います。
いまだにスーパーマンです。
その精神性を幼いとみるか、一神教の支配とみるかの判断は、読者の皆さんに委ねますが、いずれにせよひとつのコンテンツが、世代を超えた共通体験となり、その列に「ピカチュウ」が加わったのが「ポケモンGO」です。
だから「いまどきポケモン」ではなく、20年の時を経たポケモンは、マーブルヒーロー並みになったと、見ることができます。
はてさて、満を持して本日か、いずれにせよ今月内には日本でもダウンロードができるようになると見られている「ポケモンGO」。日本でも大ブームがくるか!? と注目が集まっています。
そこヒットすることは間違いないでしょう。
なにせ20年です。最初の「ポケモン」に熱狂した世代は、30歳を越えるぐらいで、いま当時と同じぐらいの「子供」を持っていれば、親子一緒に遊べます。
また、若者うけを狙ったオジサンが、必死にポケモンを集めてご機嫌と人気取りを目指す風景も目にするようになるでしょう。
なにより「アメリカで大人気」。これだけでマスコミ、Web関係者が飛びつきます。無批判に、盲目的に、考えることも無く。