高校一年生にあがったばかりの長男が、同級生に首を切断され殺
される。殺害した同級生は、長男に虐められていたと動機を語り、
しかし、同級生からその証言は得られません。
犯人は長男を人のいない山の入口に誘い出し、遺体の状況から後
から切りつけ殺害し、首を切り落とします。直後、長男を殺害した
ナイフで我が身を削り被害者を装い、犯行を隠そうとしました。
この様子をみていた農家により、通報直後から犯人は特定されて
いましたが、学生運動のピークを迎えた時代で、学校は警察権力の
介入と、殺人犯の身柄引き渡しに抵抗します。
後に切り落とした頭を蹴り飛ばしていたとも判明します。
長男を溺愛していた母親は精神に異常をきたし、正常に戻るまで
数年を必要とし、兄と比較して出来の悪いと自称する妹は、家の中
で行き場を失いながらも、逃げ出すことができなければ、反発する
こともできず、ただ生きるだけの日々を送り、父親はただひたすら
に耐え続けます。
一家に転機が巡ってきました。「喫茶店」を開くことにしたので
す。幸せが訪れたかに見えますが、すべてが上手く行ったわけでは
ありません。母親の性格に問題もありましたが、何もない一家なら、
家庭内で消化されたであろう問題です。
喫茶店という閉鎖空間に閉じ込められた妹は自傷行為を繰り返し、
しかし不幸は時に幸運の入口となります。これをきっかけとはしま
せんが、愛する人を見つけ子宝に恵まれ、ただひたすらに耐えて生
きた父親が溺愛します。
そのとき、父親は末期ガンに蝕まれていました。闘病の甲斐など
訪れることはありません。
神戸連続児童殺傷事件、いわゆる『酒鬼薔薇事件』がおきました。
長男の斬首事件が思い出され、周囲に報道陣が集まり始めました。
筆者もそのひとりでした。
いくつかの偶然が重なり、遺族に取材できることとなり、その流
れから犯人との接点ができました。
犯人は少年法に守られ、わずかな期間で少年院を出所し、名前を
変え大学を卒業し、いまは弁護士となり自社ビルまで構えるほどの
成功を収めていました。
事件直後、犯人の父親との間に慰謝料の取り決めがありましたが、
支払われたのは2年ほどで、大半は滞ったまま放置され、犯人の父親
は亡くなりました。
法的に犯人に弁済義務はありません。そして事件以来、謝罪の言
葉もありません。
筆者が作り出した接点から、遺族は犯人に電話をかけてしまいま
す。遺族が欲しかったのは謝罪の言葉だったのでしょう。しかし、
経済的な困窮もありました。また、長男を殺した犯人への怒りもあっ
たと推測します。
未払いの慰謝料を、犯人に遺族が告げると
「金が必要なの? いくらかなら貸すよ。実印とか用意しておいて
(意訳)」
我を取り戻して謝罪を求めるも、
「なんで俺が謝らなければならない?」
この憤りというより怒りは是非、本書を手にとってください。
少年法とはなんだ? と。
■心にナイフをしのばせて
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