富田メモを巡る各社の曲解

 事実というのは新聞によって設定される。

 とは、朝日新聞の一連の捏造・誤報・拡散騒動ではありません。

 9日付で発表された『昭和天皇実録』の記載を巡る解釈の違いです。今回の「主犯」は「日経新聞」。

 昭和天皇が「靖国参拝」を見送った理由を、A級戦犯合祀にあると解釈する、いわゆる「富田メモ」について、日経新聞は

“A級戦犯合祀が理由”

 と見出しを打ちます。「富田メモ」を「スクープ」したのは当の日経新聞。我が手柄を誇るといったところでしょうか。

 追随するのは毎日新聞。

“昭和天皇実録:靖国神社不参拝の経緯…「富田メモ」を追認”

 と掲げますが、追認の根拠は記者の推定にすぎません。日頃の社論から考えれば、当然の帰結かも知れません。

 この手の報道なら産経新聞ですが、

“靖国参拝問題 反対運動が影響”

 と別の記載を引いて解釈します。

 一方、読売新聞はといえば「残された謎」と分類。

“実録は判断していない”

 として、以下のように報じます。

“昭和63年4月28日に天皇が富田長官に「靖国神社のA級戦犯合祀、御参拝について述べられる」とだけ記した。宮内庁は「富田メモは断片的でいくつも解釈ができるため、正確な気持ちがわからなかった」と説明する(2014年9月9日付読売新聞 朝刊※原文は西暦に括弧で元号)”

 富田メモについては異論も多く、昭和天皇の御心が仮に日経新聞が伝える通りであったとすると、春秋例大祭に勅使が派遣されていることなど、論理的整合性のとれない行動もあり、また「メモ」の性格上、第三者が見たときの「解釈の余白」が多いのです。

 そこで「実録」では判断に踏み込まず、日経の報道があったことだけを記しています。

 それではこうなると是非、知りたくなるのが「朝日新聞」ですが、デジタル版にはこうあります。

“天皇が靖国神社へのA級戦犯合祀(ごうし)に不快感を示したことを記した富田朝彦宮内庁長官のメモは2006年7月、日本経済新聞の報道で明らかになった。実録は88(昭和63)年4月28日に天皇が靖国参拝とA級戦犯合祀について富田氏に話した事実は記すが、発言内容は「宮内庁として是認したわけではない」として触れていない。
(映し出す昭和史の断面 昭和天皇実録公表 – 朝日新聞デジタル)http://t.asahi.com/frus”

 ・・・なんだ、やれるじゃん。事実報道。と思わずつぶやきます。

 この報道に関しては、事実を淡々と伝えた朝日新聞、そして「謎」として切り出した読売新聞が、対照的ながらも「新聞らしい」と上から目線・・・いや読者視点で評価します。

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