テレビや新聞といった大メディアに負けず劣らず、Web
メディアであっても、商業版には「校閲」がはいり、断定の難しい
ものについては訂正がはいります。
また、肯定派と否定派がいれば、「両論併記」は避けられず、
そのなかでの些少の配慮があり、いずれ取り上げますが、反原発
タレントやそのシンパが大騒ぎする「言論弾圧」の根本はそこに
あり、わたしの解釈は「大人の所作」です。
その結果、読者の理解を得にくい部分、誤解を生むような箇所は
削られ丸められます。
週刊誌の場合は「キメうち」をすることもありますし、「書籍」
なら「著者の主張」という立場から過激なことも言えますが、
いかんせん、これが商業メディアというものです。
ただし、だからといって発言を丸める必要もなく、あるいは
数多の「ITジャーナリスト」のように、企業に尻尾を振らなけ
れば発言ができないとするなら、ITジャーナリストの名折れです。
だって「Web」があるのですから。
メルマガ、ブログ、ホームページでも「情報発信」はできます。
そして伝えなければならない事実があれば、それ以上の理由は
不要です。
というわけで「ステルスマーケティング」について。
実は後述するように「断定」が難しいのです。
各種連載でもちょろちょろ触れていますが、ステルスマーケティング
とは、利益供与の事実を隠し、利益該当者であることを伏せた状態
で商品やサービスを推奨する平たくいえば「やらせ」や「さくら」
です。
マーケティング=販促とすればおこがましいのですが、はっきり
いいます。インターネットの世界は不正だらけです。そこに
綺麗な言葉や、目新しい言葉を設置して事実を謀ります。
いわゆる「食べログ」の不正投稿で脚光(?)を浴びた
ステルスマーケティング=ステマ。こうした略称で悪名を誤魔化す
のもWeb業界の悪弊。
食べログのように「クチコミ」サイトだけではありません。
昨日のNack5「夕焼けシャトル」でもコメントしたことですが、
ステマが爆発的に広まった最大の理由は「ブログ」です。
その理由は大きく分けてふたつです。まず、
「ブログ=日常をのぞき見」
という錯覚によります。もともとブログとは日記型掲示板から
派生したもの(技術的な反論はブログ普及期からありましたが
利用の実態においては系譜にあります)で、私的なつぶやきと
いう位置付けでした。
その特性を利用して「素の消費者の感想」を装った
「やらせブログ」
がその始まりです。もちろん、ブログ登場以前からありましたが
先のブログに対する認識の広まりと、ブログツールの普及が両輪と
なり爆発的に広まったのです。そのため「やらせブログ」を
「Flog = Fake Blog」
と呼びます。で・・・ね、これが「バイラルマーケティング」
として使われていたことは業界では周知の事実で、バイラルとは
なにかといえば「クチコミ」です。
つまり、クチコミとステマとは、生まれたときから両面を持つ
二重人格のような存在なのです。
「よいクチコミもある、やらせばかりじゃない」
という反論には答えません。だってあたりまえだから。世界が
100人の村だとして、すべてが悪人であることなどあり得ません。
同時に全員が善人であることもありません。
つまりクチコミも同じですが、Web業界は常に「性善説」に
立ち、良いクチコミの側からしかコメントを発しません。あるいは
健全化のために努力をと、まるでロードマップを描かない民主党の
成長戦略のように、あるいは野田首相の所信表明のように
「きれいごと」ばかりです。
本稿の目的はITジャーナリストとして「闇」にフォーカスし、
やらせクチコミを糾弾する難しさを炙り出すことにあります。
やらせブログは「著名人」に波及します。つまり、実態は
企業からギャラが発生し、商品提供を受けた事実を隠して
「このコスメ超オキニWWW」
とエントリーすることで、日常をのぞき見たと騙されたファン
は著名人に近づこうと店頭に走るというもの。また、ファンが
自身の「ブログ」で感想を書くことも期待でき、これが
「バイラルマーケティング」
となるということです。ブログが普及していなければ、こう
した「波及効果」は期待できなかったことでしょう。
そして「ブログ」の普及によりステマが広まった
もう一つの理由を端的に述べればこうです。
「さくら要員の爆発的増加」
だれもが気軽に情報発信できる「ブログ」の登場により
だれでも「やらせ」を演じ、「さくら」になることができる
ようになったことです。
経済的動機としては「アフェリエイト(ドロップシッピング)」
や「ポイント」です。
アフェリエイトは商品を紹介することで、一定の利益を得るも
ので、大半は売買成立時にフィーが発生します。つまり商品を
誉めた方が利益に繋がりやすいというのが「やらせ」をし、
「さくら」に変身する最大の理由です。
次のポイントですが、レビューを書いたり、アンケートに
答えたりするとポイントを貰えるサービスが多種多様にあり
ます。貰えるポイントは微々たるもので、最大でも500円に
なるかどうかというのが大半です。
ここで経済合理性を計算します。500円のために、電車に
乗り1000円のランチを食べて帰宅してからレビューを書く
のと、
「店のホームページや他のレビューを”参考”に作文する」
ならどちらが「得」かと。善良な市民の犯罪意識とは得られる
報酬と実現にかかる手間により上下します。
簡単にいえば500円ぐらいのものに重大な犯意を感じず、
リビングでキーボードを叩くだけの行為が大層な罪となるわけ
がないという独善的な解釈です。
そしてこうした「さくら」を利用する業者により「食べログ」
の不正投稿がおこりました。
ステルスマーケティング=ステマとは「やらせ」であり
「さくら」を使った不正な販促手法である・・・と、欧米諸国
では認識され、英国と米国では罰則まで用意されています。
我が国では消費者庁によるガイドラインで、これがザル
法。
ステマは取り締まることができません。
日本のWeb業界としては「利益供与の実態」について
公表するように呼びかけていますが、実際の規制は困難です。
まず、消費者庁のガイドラインでステマを取り締まることが
困難であることは、「旨い」「素敵」といった「主観」を
取り締まるには、「思想信条の自由」や「表現の自由」が
立ちふさがるからです。欧米が法整備をできた背景には
「契約社会」ということもあるでしょう。「口約束」でも
ビジネスが動き出す日本との違いです。
ステマでの「著名人のやらせ」を本当に糾弾するとするなら
「お友達」
をどう規制するかにも繋がります。よく、耳にしませんか?
「お友達がやっているブランド」
「知り合いが手がけたジュエリー」
・・・友達とはなんぞや? メロスを信じて命を捧げた
セリヌンティウスなのか、パーティでメールアドレスを交換
しただけの人間なのか、ときに衣装提供をしてくれる洋服屋
さんまで含めるのか。
ステマの定義において「衣装提供」はアウトです。しかし、
「お友達がくれた」
と告白すれば「利益供与の事実」を公開しているので
セーフとなります。
ここで紹介した事例の著名人は芸能人をイメージしましたが
Web業界でもまったく同じです。
Web業界の著名人のブログにはやたら「友達」や「知人」が
登場することは珍しくありません。単なる人脈自慢もあれば
こんな記述もあります。
「知人が始めた画期的なネットサービスに注目している」
「友達の××さんのサイトが面白くてはまった」
個人攻撃が目的ではないので名前は伏せますが、「はまった」
はずのサイトの記述が、その後のブログででてこないことなど
いつものことです。
Web業界の「友達」について、直接的な利益供与はあまり
多くないようで、「つながり」を維持する「おつきあい」
という意味合いが強いようですが、己の利益のためという広義
においてはステマと同じです。
またシンポジウムやセミナーに呼ばれるゲストやパネリストには
大抵ギャラが発生します。そして繰り返し呼ばれるには主催者が
望む回答をするのは当然のことです。
冒頭での指摘と重なりますが、シンポジウムは書籍ではなく
持論を展開する場所ではありません。特にWeb業界のそれに
は「協賛スポンサー」がついているもので、そこでは
「期待されている答え」
があります。
もちろん、些少のギャラで尻尾を振るような「有識者」は
いないことでしょうがというのはイヤミです。
Web業界には
「PR系ブロガー」
という存在もいます。その名の通り、PR系の記事を専門と
するブロガーです。これとステマの線引きを私は知りません。
そして「ITジャーナリスト」を自称する人も片棒を担ぎます。
ネットのトレンドをバラ色に染められたバージンロードが
約束する祝福された未来を指し示すと礼賛することこそが、
ジャーナリストといいう考えの人がいます。
彼らにとって、ネットを否定することは自身の存在価値を
疑うことであり、ゆえに、ネットの可能性にフォーカスし、
想定される闇の過小評価に余念がありません。
あるいは企業の「新着情報」を、そのまま読者に届けるのが
ITジャーナリストという考えもあります。彼らにとって、
企業のプレスリリースを受けとるのが、最初の仕事で、
広報担当者との人間関係こそが収入の源泉となるので、筆が
向かう方向は読者ではなく企業となります。
ジャーナリストの定義が異なるのかも知れません。
「批判精神という牙」
をもつものがジャーナリストを名乗る資格があると私は考え
ます。しかし、商業メディアで採用されやすいのは彼らです。
彼らもステマについて知っていたはずです。遅くなりましたが
ステマ自体は2004年頃から問題視されており、2005年に
は社会問題として報じられているからです。
しかし、ネットのネガティブ情報は流通しにくい構造に
なっております。つまり消極的にステマを助長した・・・とも
いえるのです。
ステマは「食べログ」にやらせ投稿をした不正業者だけの問題
ではないのです。企業、芸能界、すべての商業メディア、そして
Web業界が、みな己の利益に該当する部分のグレーゾーンに
片目をつぶっていることにより起こっています。
思想の自由は? 友達の定義は? 利益供与の範囲は?
「断定」という線引きができないことが、ステマの報道を・・・
商業報道を曖昧にしていますが、ここに焦点を当てない限り、
ステマの構造的問題に辿り着くことはできません。