WELQに見つける社会的意義

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 先日、あるパーティーで同席した学者先生から、「WELQ(ウェルク)」について訊ねられました。驚いたのはこちら。

「え? そんなに話題になっていたの」

 不明を恥じます。

 こちらで取りあげなかった釈明はこちら。

「当たり前すぎてネタになるとは思わなかった」

 すいません、感覚が麻痺していました。

 さて、「WELQ」とはなにか。今週になり、テレビ朝日『モーニング・ショー』でも取りあげられましたが、東証一部上場企業で、横浜ベイスターズのオーナー企業としても名高いDeNA(ディー・エヌ・エー)が運営する、健康情報を発信する「キュレーションサイト」の名前です。

 それぞれについては追って説明しますが、騒動の発端は「死にたい」とグーグルで検索すると、「WELQ」のコンテンツが1位に表示されていたことです。

 訪問すると、不適切なアドバイスの果てに広告に誘導されます。検索エンジンの上位表示を目指すアプローチを「SEO」と呼び、それを駆使しての結果です。

 SEOはWebにおいて必需品で、方法論だけなら、なんら違法ではなく、WELQの手法に若干の悪意を見つけますが、取り組みだけならグレーの範疇です。なお、グーグルはコンテンツの中身について精査していません。

 生き死にに関することゆえ、SEOの専門家 辻正浩氏が問題点を指摘し、その「まとめ」が拡散されます。

 そして騒動へと発展。

[死にたい]でSEOされたwelq(運営:DeNA)の大きな問題
https://twitter.com/i/moments/782773534850371584

 指摘はいちいちごもっとも、その通りです。

 DeNAの狙いは自殺幇助にはなく、訪問者増加による広告料収入で、問題になったコンテンツではアフィリエイト会社を経由して「リクナビ」へのリンクが貼られていました。

 残念ながらこの手口、Web業界では一般的。また、状況証拠から真っ黒でも、当該企業が自白しない限り、悪意の特定は守秘義務の壁に阻まれます。だから、うっかりとか手違い、偶然と開き直られればおしまい。

 また、私が不感症となっていた理由のひとつが、この手のネタはボツにされるという経験則から。

 Web系の媒体は確たる証拠、法的結論が求められ、推定だけでは有罪に出来ないと却下され、マスコミ系の場合は「実害」がなければ記事として認められない傾向が強く、追うだけ徒労・・・とまぁ業界の垢にまみれた自分を反省しております。

 Web業界の習わし的な不感症もありました。

 そもそもWebはパクリあいの世界で、明確な悪意が確認されない限り黙認される空気があると同時に、それを悪用するものらが成り上がってきた歴史が、日本のWeb業界にはあります。端的にいえば「パクッたもの勝ち」。ライターも含めてクリエイターへの敬意が伝統的に薄いのです。

 それが証拠に、大企業が運営するキュレーションサイトが相次いで記事を取り下げます。

 日経新聞のまとめを引用すると、「アメブロ」や「ピグ」で馴染みのサイバーエージェント(4751)の「Spotlight(スポットライト)」、リクルートホールディングス(6098)の「ギャザリー」、ヤフー(4689)「TRILL(トリル)」が記事の非公開を発表しています。なお、社名隣の番号は「証券コード」で、すべて上場企業です。

 法令遵守を課せられた上場企業が、パクリの果てに真贋怪しい情報を拡散していた事実が、クリエイター軽視の風潮を雄弁に語ります。

 念のため付言しておきますが、私が連載を持つ「Web担当者Forum」も同じ上場企業のインプレス(ホールディング・9479)の運営ですが、オリジナルコンテンツに真摯に取り組む数少ないWebメディアです。

 とりわけ同サイトは独自の基準と美学を持ち、私が現場レベルでは使用している、怪しげなテクニックのネタは、ことごとくボツになります。役立つとしてもモラルとしてNGと。

 「キュレーションサイト」とはなにか。

 博物館や美術館の学芸員がキュレーターと呼ばれるように、特定分野の情報を収集し、それを精査して展示することを目的としたサイトで、WELQは健康に関する情報を提供すると掲げていました。

 キュレーションサイトは米国で生まれ、本国では独自取材を展開するなど、いわば専門誌的な立ち位置で、存在感を発揮していますが、日本のそれはパクリに過ぎません。

 なかには本当の意味での「キュレーション」に取り組むサイトもありますが、悪貨は良貨を駆逐するの格言にあるように、情報品質の低いサイトが多数を占めるのが現実です。

 「まとめサイト」や「バイラルサイト(クチコミ)」と呼ばれるサイトも同じく五十歩百歩で、むしろ「2ちゃんねる」の投稿を抽出して編集した「まとめ」の方が、しっかりと「キュレーション」されております。

 IT業界の著名人が関与しているパクリ事例もありました。IT系のジャーナリストとして名を売り、フジテレビのWeb番組に、ちゃっかりご意見番のようなポジションでご活躍の佐々木俊尚氏が、共同編集長として参画したバイラルサイト「TABI LABO(旅ラボ)」は、海外のバイラルメディアから記事を盗用(無断引用&翻訳)していたことが発覚しています。

 パクリが騒動となると「参照元の表記漏れ」としれっと釈明して見せますが、同様の手口が繰り返され、国内の記事からの引用も発覚しています。

 それでいて、佐々木俊尚氏は、昨年の東京五輪エンブレムを巡る一連の「サノケン騒動」において、

《くだらない的外れな非難をする人たちに「俺たちの声がやっぱり正しかったんだ!」という成功体験を与えてしまうのは、社会として健全ではありません。無視する力を持とうよ。》

 と自己弁護か、開き直りかわからないツイートを。

 ショーンKといい、この手の人物を起用するのはフジテレビの体質なんでしょうか。なお、私は佐々木俊尚氏にツイッター上で「ブロック」されております。

 ツイッターで論拠不明に執拗に絡みつく行為を、「評論家タレント」への転身が噂される津田大介氏は「クソリプ」と呼びます。

 そのクソリプは津田氏につながるパヨクと呼ばれる左派勢力が得意とし、ネトウヨ勢力も武器としますが、意味不明さと粘着性と仲間と連携した攻撃の悪質性において、パヨクは他の追随を許しません。

 私も何度かクソリプなるものを飛ばされたことがあり、大変な迷惑行為に違いありませんが、私の名誉のためだけに記しておきますと、佐々木俊尚氏にクソリプを送ったことはないので、自分の名前で検索する「エゴサーチ」で、佐々木俊尚氏への批判というか指摘をみつけてブロックしたのでしょう。図星だったのでしょうね。
 
 著名人とされる人物が関与するサイトでもパクリが横行しているということです。日本のWeb業界のメインストリームがパクリに寛大というより、むしろ積極的にパクっています。そんな彼らからクリエーターへの敬意を見つけるのは困難です。

 実際、コンテンツの削除を発表したサイバーエージェントは、創業者の藤田晋氏の著書『渋谷で働く社長の告白』で、ホリエモンこと堀江貴文氏と組んで、メルマガ広告のシステムのパクっていたことを悪びれもせず告白していましたし、ホリエモン時代のライブドア社のパクリはつとに有名でした。

 学ぶは真似るから変化した言葉で、すべてのパクリを否定はしませんし、海外でも先行者を真似したサイトやサービスを作る事例はありますが、より良きモノを作るというベクトルだから認められるものながら、日本のWeb界隈で横行するパクリとは、

「より儲かる」

 というベクトルの人々です。

 カヤック(3904)が上場する前の話ですが、創業者の柳澤大輔氏はソーシャルアプリゲームの開発において、「pixiv」というイラスト投稿サイトでの学生の青田買いを推奨しています。

 「絵の上手い素人をスカウトする」という文脈でないのは

《ここでゲームのイラストを描いてもらう学生を見つけると、驚くほど安い値段でゲームを制作できたりします。(※当該記事が削除されたようでアーカイブより)》

 からも明らかです。

 個人のブログやツイッターなら、それも経営方針ながら、これを掲載したのは「日経BP」です。

 コンテンツを作る側の新聞社、出版社が、買い叩きを容認したということ。2010年のできごとです。

 金儲けが悪いとはいいませんが、金儲けだけが目的のウェブ関係企業の慣れの果てが、今回のWELQ騒動の真実だということです。

 すっかりITジャーナリストして活動していますが、私の記憶にある初出では「ケータイ評論家」だった三上洋氏。

 本件をうけて「スマホ画面の小ささから、より検索順位争いが熾烈になった。より注意が必要だ」と、テレビ朝日「モーニング・ショー」で騒動を語っていましたが、SEOの順位争いの熾烈さは、この10年変わっておらず、それでもWELQのような社会問題に発展してこなかったのは、この手の悪質なパクリは、個人のブロガーや、怪しげなWeb屋しか手を出していなかったからです。

 一方、今回の「事件」が起きたのは

「大企業が大資本を背景に脱法市場に参入して市場を荒らした」

 ことが最大の理由です。スマホの画面のせいではありません。企業に親しい人は、企業の悪口を言えないので大変です。

 個人のブロガーや怪しげなWeb屋だけで、個人レベルのできることには限界があります。ところがWELQのDeNAに代表される大企業には、組織と資本と人がいて、さらには名前もあるので下請けなど叩き放題。しかも、そこに合法的な買いたたきに協力するIT企業の存在があります。これも事件の要因です。

 その企業とはクラウドワークス(3900)です。仕事を依頼する業者と、それを求める個人や法人が応募するサイトで、仲介業(マッチングサイト)という位置付けなので、そこに悪意を当てはめることは困難ながら、ライターへの依頼を辿ってみると、1文字0.5円は高額なほうで、0.2円の執筆依頼もあり、400字詰め原稿用紙1枚書いて80円の計算です。

 この発注で、まともな記事になると考える方が異常ですし、こんな安価な案件を仲介するサイトの神経が疑われますが、受発注双方の自己責任と開き直られれば何もいえねぇ、というのが現実です。

 そして事実上、過重労働、搾取に加担していますが、いまの日本に裁く法律もなければ、非難する声もありません。

 そもそもWeb界隈の原稿料は安く、紙媒体で活躍するジャーナリストに原稿料を教えたところ、音信不通になったほどですが、これは搾取の構造というより、実際に「お金がなかった」ことと、「お金なんかより伝えたい」という情熱に頼ったアマチュアイズムの名残といえます。

 いま、Web業界は一大産業となり、上場企業は続出し、億万長者もゴロゴロ、千万長者レベルなら掃いて捨てるほどになりながら、いまだにライターをはじめとしてクリエイターの単価が低いまま放置されているのは業界の悪弊というか、

「コンテンツはパクれば良い」

 という経営陣の方針にあり、私ですら麻痺するほど常態化していたことに気づかせてくれた社会的意義だけをWELQに認めます。

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